今日3月15日に2003年4月に設立された株式会社産業再生機構がその役目を終え、当初予定通り解散となった。

社員200名の今後、どのような形で活躍をしていくのか注目したい。
事業再生を支える事業再生ファンドの仕組みが知りたくて読んでおいた。
本書は月刊誌『Loop』(休刊)の2003年4月号〜2004年5月号にかけて連載された記事を大幅に加筆したもの。

事業再生ファンド

事業再生ファンド


<読書メモ>


リップルウッド・ホールディングス
 ・新生銀行(旧・日本長期信用銀行)を2000年に1210億円で買収し2004年2月に
  東証1部に上場させ、「ニューLTCBパートナーズ」ファンドは全株式の32%を
  売却し、約2300億円の売却収入を得た。
 ・日本テレコムを2003年10月に買収し、2004年5月にソフトバンクに売却。


フェニックス・キャピタル
 ・2002年に東京三菱銀行出身の安東泰志氏が設立。
 ・安東氏は1980年代末から90年代半ばにかけてロンドンで不良債権処理を担当し、
  理論・実務に精通。帰国後、邦銀の不良債権の解決策を考えるうちに、再生
  ファンドにたどり着いた。
 ・フェニックスは、債権者・従業員・株主の書くステークホルダーの協調と痛み
  分けの精神を貫徹。


中小企業再生支援協議会
 ・2003年4月施行の改正産業活力再生特別措置法に基づき、都道府県毎に商工
  会議所、自治体の産業振興財団等が主体となって設立された。
 ・当協議会が緩和する再生ファンドが相次いで設立され、中小企業総合事業団
  出資している。
 ・産業再生機構と違うのは、対象企業の状態・再建計画等の情報公開の義務が
  ない点。


○エクイティ(株式)に注目する企業買収専門ファンド
 ・「プライベート・エクイティ・ファンド」「バイアウト・ファンド」と呼ばれる。
 ・ファンドの運用期間は10年。最初の3〜4年で企業10社前後に投資し、残りの
  期間で投資を回収する。
 ・ジァフコの500億円ファンドの場合、1社当り30〜50億円、10〜15者分となる。
 ・儲けの掛算:レバレッジ×キャッシュフローの倍率×収益向上
  →レバレッジは投資時の借入効果。
  →キャッシュフロー企業価値を策定するものさしEBITDA(利息・税金・減価
   償却前利益)で示す。
  →収益向上は字業を伸ばし成長させる
  同社がMBOした金型表面加工会社のトーカロの儲けの掛算は「2倍×1.5倍×2倍」
  の6倍以上。
 ・バイアウトの場合、年率換算で10数%〜30%の利回り。
 ・運営会社自らも投資しゼネラル・パートナーとなり、ファンドから管理料、
  買収成功、売却成功ごとに手数料もとる。


○デット(借金)にに注目する不良債権投資ファンド(ハゲタカ・ファンド)
 ・1997〜98年頃、短気決戦で大手銀行の不良債権バルクセールで始まった。
 ・ハゲタカ・ファンドが生み出したニュー・ビジネスに、不動産ファンドと
  サービサー(再建回収会社、1999年にサービサー法が施行)がある。 


○エクイティ投資とデット投資を融合した企業(事業)再生ファンド
 ・2002年に登場。
 ・特定企業向け債券(銀行の不良債権)を銀行から買取り、デット・エクイティ・
  スワップ(DES)を使い、一部を株式にするか、増資に応じ株式にしておくことで、
  価値時幼少をリターンに反映する。
  →DES(Debt Equity Swap)は、債務の証券化。企業の持つ債務を同等の
   価値(時価)の株式に転換すること。債務者企業は自己資本比率が増し、
   BSが健全化する。
 ・株式上場、売却が難しい中堅・中小企業を対象としてデット投資に徹し、
  企業再建により債権の回収率を高めることでリターンを稼ぐファンドもある。


リップルウッド・ホルディングスとカーライル
 ・2004年時点で投資活動を日本で継続している外資バイアウト・ファンド
  米国2社のみ。
 ・両者とも三菱商事との人的コネクションがある。
  →リップルウッドに出資し、人材も送っている。
  →カーライルも日本のバイアウト部隊の代表者2人(安達保氏、朝倉陽保氏)が
   三菱商事出身。
 ・リップルウッドは、米国型バイアウト手法を貫き、プロ経営者の派遣を重視。
  日本では総額約1200億円のファンドを2つ運営。
  ティモシー・コリンズ氏が1995年に設立したバイアウト・ファンド専業投資会社。
  本部はニューヨーク。活動エリアは米国と日本。2004年春のファンド総額40億ドル。
  様々な業種のプロり経営者「インダストリアル・パートナー」を抱えている。
 ・カーライルは、既存経営者との協調路線(プロマネジメント)で日本市場への
  適応を目指す。
  2000年に東京にオフィスを開き、ベナチャーとバイアウトの2本立てで業務開始。
  (新興市場の停滞が続き、2003年にベンチャー投資事業を休止)
  1978年に設立。バイアウト・ファンドしては後発で90年代に急成長。
  本部はワシントンD.C。2003年運用総額は175億ドル(2兆円)。
  活動エリアは米国、欧州、アジアをカバーし、バイアウトが6割以上を占める。
  顧問には政府高官経験者を擁し、国防・通信・エネルギーなど規制産業に強い。


○不動産業と金融業の融合
 ・1997年、外資系投資会社が都市銀行から不良債権をバルク買いした事から始まった。
 ・不動産ファンドの2つの業務
  アセットマネジメント:ファンドの投資物件全体を管理・運用し投資利回り
  最大化を担う業務。メインの投資会社が担当。
  プロパティマネジメント:個々の不動産物件の収益力をアップし、価値向上を
  図る業務。不動産会社に委託。
 ・不動産ファンドは、特定の不動産を特定の期間(5年、7年)持つだけで、所有リスクが
  圧倒的に小さい。
 ・不動産ファンドの投資物件の価値は、それが生み出すキャッシュフローで決まる。


産業再生機構の問題
 ①民間プレイヤーのように振舞うことは設立の趣旨に合っていない。
  ・民業の補完をすべきで、趣旨に合っているのは明白に最初から出資スポンサーが
   いる案件に限られるはず。
  ・九州産業交通三井鉱山のケースでは、支援決定時点で買い手がいなかった
   という事は、「民間セクターの活動の補完」を超えて仕事をしすぎた例。
 ②民間との対等な競争条件ができていない。
  ・債権者区分上げ、無税償却認定など、産業再生機構に優遇措置が偏っている。
  ・債務者区分上げとは、産業再生機構案件となった企業向け債権を「要管理先」
   ではなく、「正常先」「要注意先」と金融庁はみなすこと。
  ・無税償却認定とは、産業再生機構整理回収機構が買い取った不良債権は、
   銀行が債権放棄をして出す損失も含め、国税庁が貸倒として認めること。