大和総研の新規産業調査(バイオ・医療分野)のレポートに、新規産業情報部/浅野信久氏による2003年3月1日付の「医療経営革新と医療ベンチャー」というレポートがあった。

内容としては、4年前のデータで少し古いが、医療業界のことが良くまとまっており、大変参考となるレポートである。
混合診療、医師・看護師の派遣事業など、規制緩和がされれば、医療関連ベンチャーの中から急成長する企業が出てくる可能性が高いので、その動向を注視しておきたい。<レポートの要点メモ>

○医療法人の形態は2つ
・医療法人の総数は34,272件、財団が401件、2001年3月末現在
・医療法人社団:特定の事業を行う為に人が集まった組織
  「持分の定めのある法人」
   →解散時に、社員が拠出した資金や提供した労務の部分の払い戻し請求ができる為。指摘所有の色彩が強い
  「持分の定めのない法人」
   →解散時には法人の財産は他の医療法人や国などに帰属する
医療法人財団:寄付された財産を元に形作られた組織
  →解散時には法人の財産は他の医療法人や国などに帰属する

○医療法人の3つの種類
公益法人である医療法人には、行える業務に制限がある。(医療法42条)
・「特別医療法人」(18件/2001年3月末)は、厚労大臣の認可要件を満たし、収益を病院や介護老人福祉施設に活用することを条件に、12事業を営むことが可能。
・「特定医療法人」(299件/2001年3月末)は、医療法の定める名称ではなく、税法上の区分で公的に運営されていると財務大臣に承認された医療法人。軽減法人税22%が適用。
・「広域医療法人」2つ以上の都道府県で医療機関を運営する医療法人で、通常は都道府県知事の認可に対し、厚労大臣の認可が必要。

○病院の種別
・国内には、病院は9,266施設、診療所が92,824施設。(2000年10月現在)
・病院開設者の6割が医療法人。
・病院全体で164万人の従業員を雇用し、うち医師は16.7万人、看護師が74.9万人。
・病院には一般病院の他に、地域医療の中核的昨日を担う地域支援病院(29施設)、高度医療を提供する特定機能病院(81施設)という種別がある。
・現行医療法には「総合病院」という名称の使用制限は記載されておらず、概念はなくなっている。

医療機関の経営状況
医療機関経営状況の統計資料
  厚生労働省「病院経営収支調査」
  中央社会保険医療協議会「医療経済実態調査」(2年毎)
  全国公私病院連盟日本病院会「病院経営実態調査報告」「病院経営分析調査報告」
・2001年は1208病院中66%が赤字(自治体病院の89%が赤字、私立病院の34%が赤字)
・500床病院では、1999年の調査によると平均収支差額は医療収入の3%、医療費用のうち給与費が51%、材料費30%(内、医薬品が65%)。
・無床診療所の月間医療収入(1999.6)は8百万円、収支差額は医療収支の24.5%、給与費は医療収入の32.6%、医薬品代が20.2%。

○効率的な医療を目指す戦略経営の必要性
・米国では株式会社により経営されている病院は13%(2000年)であり、大多数の病院は非営利団体が経営主体。
・米国では30年前頃から、企業における経営戦略の概念をベースに、病院向けに進化させてきた。
 →病院の株式会社化の議論よりも、むしろ戦略経営の導入の方が、医療経営の近代化・効率化の為には先決

○医療と経営の分離による企業経営方式の導入
・医療法第7条5項の規程により、日本では営利企業による医療間の経営は認められていない。
・医療に該当せず医療法に定職しない業務部分を企業化することにより、医療機関の経営の効率化を図る動きがある。
 例.PFI方式を利用した高知医療センター
 →規模の大きな病院、受託する医療機関が多いほど、企業経営方式の導入はしやすくなる。

○米国の株式公開医療ベンチャー
・全米に100〜200病院を抱える病院チェーン企業(ニューヨーク証券取引所NYSEに公開)
HCA Inc.、Tenet Helthcare Corporation、
・地方の効率病院を買収し、地方病院のみを専門に運営管理する病院チェーン
  Community Health Systems Inc. 1985年設立、2000年6月NYSE公開、従業員13200名
・透析クリニック専門(外来透析センター238、病院の透析センター120)に展開 
  Real Care Group Inc. 1995年設立、1996年2月NYSE公開、従業員5562名
・長期療養入院型病院64施設と外来リハビリ・クリニック717施設を運営管理
 Select Medical Corporation Inc. 1996年設立、2001年4月NASDAQ公開、従業員15900名
・心臓専門病院や車載型の心臓カテーテル検査室の運営管理・コンサル
  Medicath Corporation Inc. 1988年設立、2001年7月NASDAQ公開、従業員3323名
・救急手術センター95施設の運営 
  AmSurg Corp. 1992年設立、1997年12月NASDAQ公開、従業員845名
・病院専門の不動産ファンド(REIT)を運営 
  Windore Medical Properties Trust 2002年設立、2002年9月NYSE公開

○医療関連ビジネスの現状
・医療関連サービス振興会の調査:医療関連サービスマーク認定企業数2134社(2001年10月)
・医療関連サービス市場規模は1.5兆円。内、検体検査市場と患者給食市場は各約5000億円規模。
・他に調剤薬局の市場規模が2.7兆円
アウトソーシング型から一歩踏み込んだ経営支援サポーター型(マーケティングリサーチ、経営コンサル、情報提供、広告宣伝活動、ファイナンス、経営財務)に事業を展開しているケースが見られる。

○医療関連ベンチャー(経営支援・コンサルティング)の事例

  ケアネット:医療情報提供サービスの草分け、CS放送による医師向け医療情報番組など
  エムイーネット:在宅医療の大塚クリニックの支援企業
  ゼネラルスタッフ:16歯科診療所をもつ徳真会のサポート企業
  アトレ:医療機関の開業。運営支援プログラム「赤ひげ倶楽部」を運営
  フリール:CT、MRI搭載車のレンタル
  イマ インターナショナル:入り浮き間の院内感染防止に向けた情報、トレーニングを提供
  メディカルクリエイト:元マッキンゼー出身者と医師が設立、CCM(ケアマップ開発者が率いる米医療コンサル会社)の日本パートナー
  オーシーエージャパン:NYSE公開の矯正歯科専門のマネジメント会社の日本支社
  ヴィスクジャパン:視力矯正療法などプラス医療(健康な人を対象とした医療)を提供する病院経営の支援
  ヘルスケアシステムズ:板橋区の竹川病院長が率いるコンサル会社
  メディヴァ:元マッキンゼーのパートナーが設立

○医療サービスの特徴
 ・adverse selection:健常者より疾病リスクの高い者ばかりが保険に加入してしまう
 ・moral hazard:保険制度の悪用
 ・asymmetric information:情報の非対称性。医師と患者間で持っている時用法の室と料に差がある
 ・physician induced demand:医師が医療需要を作り出す
 ・cream skimming:収益の上がる患者を優先して診療してしまう
 →これらの特徴が、時に市場経済原理をうまく機能させなくなることがある(市場の失敗)
  過激な競争原理の導入を避け、公益性と競争原理との調和がとれた医療供給体制をいかに構築していくかが、入り用の将来の大きな課題