さわかみ投信代表の澤上篤人氏の本。

昨年12/2に澤上氏の講演を聞き、読んでみたいとずっと思っていました。講演では時間の関係で省略された長期投資の必要性や背景が説明されている。

<読書メモ>

年金問題は、先進国共有の悩み
・年金制度は先進国にしかなく、発展途上国では国内資本の殆どが経済建設に向かい、年金制度の整備は後回しになる。
・国家予算82兆円の56%に達し、巨額な財源を必要とする年金制度は重過ぎる。
 →日本には2001年度には、3864万人の年金受給者がいる。うち、国民年金加入者は1300万人で平均年額66万5千円を受け取っており、構成年金や公務員年金加入者を合計すると1800万人余で、平均すると年額208万円受け取っている。これらに遺族年金・障害者年金を加えると毎年の年金給付額は46兆円になる。

○低下する日本の貯蓄率
・今や日本の貯蓄率は先進国(OECD平均8.7%)でも、米国についで低い水準。
 →日本の貯蓄率の推移:1975年23.1%、1992年15%、2004年第2四半期4.2%
 →問題なのは日本新の平均給与水準が下がってきていること。
・貯蓄率ゼロの世帯は22%を超えた(貯蓄広報中央委員会2004年8月発表)
・低金利政策は、個人・家計部門から利子所得を強制的に取り上げ、法人部門に注入する政策意図がある。
・通常は預貯金で3〜4%の利子収入が期待でき、個人金融資産1416兆円のうち預貯金728兆円(2005
年3月末、日銀速報)。つまり家計は源泉税を支払った後の手取り額で、17兆円〜23兆円の利子所得があったはず。
 →毎年20兆円の利息手取り額が、これまでの10年に渡り家計から奪われ続けてきた。

○お金持ちの運用
 1.いつも現金からスタートする
  →お金持ちは動かない時は現金運用でのんびりと短期金利を稼ぐだけ。
   機関投資家の運用は、株式でも債券でも常に目一杯ポートフォリオを作成するので、市場価格の急落に備え、ヘッジをかけざるを得ず余計なコストがかかる。
 2.自身を持って価値判断できるものにしか投資しない
  →機関投資家の運用は、資金量が大きいので色々な投資対象を幅広くポートフォリオを組み入れようとする為、集中投資から離れてしまいリスクヘッジ等の手法に頼ることとなる。
 3.市場の価格変動を高い所から眺める
  →多くの投資家は相場の動向(市場の価格変動)を見ながら投資判断を下す為、迷いが出てくる。相場は投資家が参加した結果でしかない。
 4.安く売って、のんびり高くなるのを待つ
  →本来価値の高いものが、異常に思えるほど安く売られている時に買っておき、安値に放置された価格を是正しようとする潮が満ちてくるまで持ち続ける。
   機関投資家は機関収益を意識せざるをえないので、じっくり持つことができない。
 5.売り一色で買う理由がつかない時に買う
  →投資運用とは「将来の納得に対し、現在の負納得で行動する」もの。
   皆が不納得な時にあえて買おうとする訳なので、その行動を説明などできるわけがない。(投資運用の本質)
 6.自分のペースで買いに入り、好きな時に売る
  →お金持ちはマイペースを守り、自分のリズムを大事にして、さっさと利益確定の売りを出す。

○財産作りの柱は株式投資
・欧米には長期の株式投資がどれだけの実績を残すか、色々な研究データがある。
・(財)日本証券経済研究所のデータ
  1952年から89年末までの37年間で、東証1部の平均株価収益率は、年20.2%。
  1952年から2004年までの52年間で、13.4%。(パプル崩壊後15年間の大幅下落と低位低迷を含む)
  13年以上の期間で投資する限り、株式投資が最も効率的で安全な財産作りの手段。
・米ペンシルバニア大学ウォートン校/ジェレミー・シーゲル教授(長期株式投資リターン研究で最も有名)
 →長期国債、短期国債ともそこそこのリターンを得られるがインフレには弱い。
  株式投資は長期リターンも抜群、インフレも軽々と乗り切っている。
・米ICA(ミューチャル・ファンド):資産規模8兆円、1933年から2004年まで71年間の運用成績は、年12.9%。

日本株市場の売りは終わった
・1960年から1980年にかけて企業の株式持合いが続き、1988年3月末で54%に達していた。(大和総研調べ)
・1980年代末には、法人所有株は、日本企業の発行株数の72%を超えていた。
・今や株の法人による持ち合いは、全発行株数の10%前後となった。
・外国人投資家の日本株買い越し額は、91年から2005年7月までの14年半で50兆3千億円。
・企業、銀行、生損保の売り越し額は、合計で31兆3千億円。

○長期投資家が成熟経済下の企業活動をチェックすべき点
・この会社はやるべきことをやっているか
 →成熟経済における企業存続の条件は、経営全般のコストを徹底的に削ぎ落とし、拡大縮小のメリハリが利いた経営を貫くこと。
 1.買い替え需要のみのパイの中だけで収益が出せるよう、経営全般のコストを引き下げている
 2.需要減少の底で拡大投資に入れるか
 3.需要拡大の頂点の手前で、サッと縮小・現金化をやれるか
・成熟経済では商売の成否は、消費者や生活者が50%握っている。

バブル崩壊の代償
・資産デフレによる評価損1600兆円〜1058兆円。
・1992年9月の総合経済対策費を皮切りに契機対策に130兆円、金融再生法案で60兆円ワク中46兆円、信用保証協会の融資保証で48兆円の公的資金が日本経済に投入された。また低金利ゼロ金利政策により、家計から吸い上げた利子所得は200兆円。
 →全て合わせると420兆円もの巨額資金となる。

○長期投資家のやるべきこと
・不況時に、ありったけのお金を持ち出して株を買う(民間版の景気対策になる)
 →売りたい人が現金を手にすることで、次の新しい行動に移れ、売り圧力が収まり資産デフレが止まる
   
○長期投資のアセット・アロケーション(資産配分)
・長期の投資運用で成績の6〜9割りがアセット・アロケーションの切り替えで得られる。
 1.不況時〜景気回復〜景気過熱気味:株式投資のみ
  →景気回復時には金利が上昇し、債券価格は下落するので、債券投資は避ける。
 2.景気過熱気味期:徐々に株を売り現金ポジションを高める
 3.景気のピーク時::現金70%、株式30%のポートフォリオ金利水準が高くなり金利収入が得られる。
 4.景気下降トレンド:金利低下により、債券投資の比率を高める。株式30%、債券60%、現金10%のポートフォリオ
1〜4をゆっくりと単純作業を繰り返す。

株式投資の王道
株式投資は、企業の利益成長機会に参加すること。
 1.企業の利益成長は先行投資の結果である
  →狙いを決めた会社が先行投資の負担で苦しんでいる時に買い出動する。先行投資期は利益水準が低い為、株価も相当安くなっている。
 2.社会に受け入れられる企業でなくてはならない
  →継続的な息の長い購買ニーズに答えられ、安定的に利益成長を積み重ねていける強い経営基盤を有する会社


『"時間"がお金持ちにしてくれる優雅な長期投資』 澤上篤人著 実業之日本社 2005年11月15日初版第2刷発行 1400円

※「おらが町の投信」について詳しく書かれている次作を早く読みたい。