科学技術振興機構主催の「技術移転に係わる人材育成研修プログラム」で山口大学大学院技術経営研究科(MOT)の向山尚志教授の「ベンチャーファイナンス」の講義を聴いた。

元開発銀行出身ということで、ベンチャーファイナンスの仕組みを分かり易く説明して頂け、大変内容の濃い講義であった。


<講義メモ>


ベンチャーキャピタル
・現在、我が国では200社近くが存在する。
・1946年に米国ボストンで設立されたARD(American Research & Development)が起源とされる。
・日本の第1号は、京都の財界関係者が中心となった「京都エンタープライズデベロップメント」。
 →8年後に解散。当時は振興市場が存在せずIPOに時間が掛かりすぎた。
・1970〜1990年代前半までは、金融機関の別働隊のような活動が中心で、経営基盤が確率された中堅企業を対象。
・近年では、投資事業組合(ファンド)を利用した資金調達方法が多く利用される。

投資事業組合の仕組み
・General Partner(GP)が運営するファンドにLimited Partner(LP)が出資をし、ファンドの投資先企業が出口を見つければ、キャピタルゲインを分配される。
投資事業組合の期間は10年程度。
・GPの管理報酬は年間3%程度なので、10年間ではファンド全体の30%となる。

○日本の主要ベンチヤーキャピタル

2005年度VC投資上位10社

- 社名 投資金額 前年比
1位 中央三井キャピタル 743億円 580%
2位 SBIホールディングス 625億円 260%
3位 ジャフコ 489億円 -1.9%
4位 NIF-SMBCベンチャーズ 250億円 -
5位 日本アジア投資 180億円 6%
6位 日興アントファクトリー 177億円 28.6%
7位 三菱UFJキャピタル 96 -
8位 みずほキャピタル 89億円 -1.6%
9位 オリックス・キャピタル 78億円 32.9%
10位 安田企業投資 56億円 48.1%


○資本政策
・株式公開に向けて、いつ、誰に、いくらで、どのような方法で、株式を譲渡、増資・割当していくかをデザインすること。
 →事業計画書によって必要な資金を把握し、資金調達方法を選択する
 →経営権の安定に十分な持ち株比率の構成とする
 →役員、従業員のインセンティブを図る
 →創業者利潤を確保する
・創業者が確保しておくべき持ち株比率の目安(株主総会の支配力)
  1/3以上:他の株主が全て一致した場合でも、特別決議を阻止することが可能
  1/2以上:自らの力で通常決議が可能
  2/3以上:自らの力で特別決議が可能


○資本政策の実行手段と検討事項

- 資金調達を行う 資金調達をしない
持ち株比率変化無し 株主割当増資 株式分割、株式へ烏合、くくり直し
持ち株比率変化有り 第3者割当増資、新株予約券付社債ストックオプション、成功報酬型ワラント、従業員持ち株会、公募増資 株式移動(売買、贈与、相続)、合併、新株予約券の売買、財産保全会社の成立、売り出し


アンジェスMGの資本政策(有価証券報告書

月日 内容 株式総数増減 発行済株式総数 発行価格(円) 資金調達額(千円) 資本金増加額(千円) 資本金残高(千円)
99.12.17 会社設立 220 220 50,000 11,000 11,000 11,000
00.4.18 株主割当 660 880 100 66 33 11,033
00.6.10 株主割当 2,640 3,520 100 264 264 11,165
00.12.6 第3者割当 339 3,859 50,000 16,950 16,950 28,115
01.5.16 株主割当 11,577 15,546 100 1,157 1,157 29,272
01.5.22 株主割当 46,308 61,744 100 4,630 4,630 33,903
01.12.21 第3者割当 5,000 66,744 266,800 1,334,000 667,000 700,903
02.9.25 公募増資 15,265 82,009 220,000 3,358,300 973,143 1,674,046
02.10.21 第3者割当 2,000 84,009 220,000 440,000 127,500 1,801,546
03.10.3 公募増資 8,200 92,249 770,880 6,321,216 2,930,147 4,732,694


アンジェスMGの創業者者の持ち株比率維持方法
・会社設立時の資本金払込後、4回に渡り、それぞれ1株当り100円の払い込みによる3倍の株主割当増資を行い、創業経営者の持株数を確保。(現在は株式分割が可能になっている)
・その結果、設立時の株主は当初の256倍、56,320株の株式を保有し、2002年9月のIPO時の公募増資後の株数82,009株の68.7%を確保。
・1株当りの取得価格は295円で、IPO時の公募価格22万円の約1/750。

創業者への株主割当増資の実績

月日 株式増加数 発行価格 振込金額 1株平均取得価格
99.12.17 220 5万円 11,000千円 5万円
00.4.18 660 100円 66千円 12,575円
00.6.10 2,640 100円 264千円 3,219円
01.5.16 10,560 100円 1,056千円 880円
01.5.22 42,240 100円 4,224千円 295円
合計 56,320 - 16,610千円 295円

○株式公開のメリット、デメリット
・メリット:
  資金調達能力・手段の向上、多様化
  知名度・対外的信用の向上
  人材確保上の優位、従業員の士気向上
  社内管理体制の強化・充実
  創業者利益の確保、株式の流通性増大
・デメリット:
  会社情報開示義務と事務量・コスト増大
  経営権乗っ取りの危険性
  法令、規則の遵守義務
  株価を意識した経営が必要


○振興市場の概況
新規公開数

- JASDAQ マザーズ ヘラクレス 合計
開設時期 1963年2月 2000年6月 1999年12月 -
2000年 97 27 33 157
2001年 97 7 43 147
2002年 68 8 24 100
2003年 62 32 7 101
2004年 71 56 16 143
2005年 65 36 22 123
2005年末数 956 151 124 1,231

上場時平均時価総額

- JASDAQ マザーズ ヘラクレス
2004年 103.9億円 131.7億円 122.3億円
2005年 161.1億円 178.9億円 109.1億円