米国大使館・東京アメリカンセンターと立教ビジネススクールとの共同企画によるジャーナリストの「ダニエル・ピンク氏との意見交換会」に参加してきた。

ピンク氏の今回の来日の目的テーマは、米国で大人気の「マンガ」で、5週間前から来日しており、後2週間滞在されるらしい。
講演の中で、自身による翻訳本の紹介があったが、「何故か日本では、大前さんの顔写真が前面に出ている。不思議だが、自分は売れてくれれば良い」と言っていたのには笑えた。


ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代


<講演メモ>

○今、求められている能力
 ・中西部のつまらない地域に住む両親のアドバイスで、自分は25年前にロースクール
  に行ったが、これは人生における大失敗であった。
  →「上位10%」という言葉は良く聞くが、「下位10%」の成績だった。
 ・そのアドバイスとは、「良い成績を取って、良い大学に行って、経済的・地位的に
  成功すれば、中流の生活がおくれる」と全世界の先進国の両親は考えていた。
 ・そのアドバイスの通り、ある時期までは、弁護士、会計士、エンジニア等に必要な
  能力が、生活を保障していた。
 ・しかし、現在は、もっと重要な能力が求められている。


○右脳と左脳の役割
 ・脳はエレガントで効率的で、様々な作業の役割を左右の脳で分担している。
 ・左脳は、分析・論理的にチャートゆグラフを使用して、正しい答えを導き出す
  役割を担い、生きていく上で必ず必要だが、それだけでは十分ではない。
 ・右脳は、統合的に全体像を捉え、デザイン力や共感を生み出す役割を担い
  今後、重要になってきている。


○3つのキーワード
 Asia(日本以外):
 ・インドのムンバイでは、SEの年収が1万5千ドルと、米国ではファーストフードの
  アルバイトの年収。米国のSEは年収6万ドル。
   →ちなみにムンバイのIT企業から100m離れた所はスラム街である。
 ・米国のホワイトカラーの仕事が、段階的に確実に海外にアウトソースされて
  おり、政治問題化しつつあるが、真剣に問題として受入られておらず、
  大部分の国民は気づいていない。
 ・例えばインドの10億人の国民の15%の1億5千万人が、先進国のホワイトカラー
  のレベル(中の上)に達したらどうなるだろうか?
   →日本の人口より多く、米国労働人口は1億4600万人と同じになる。
 ・順序に従えば答えが出るルーチンワークの仕事は先進国では、既に失われ
  つつあり、いずれは無くなる。
  ホワイトカラーの仕事の一部である経理は、左脳の仕事である。
 ・P&Gは米国ではエンジニアをリストラし、デザイナーを増やしている。
   →これからは、右脳の仕事で勝負する必要がある。  
 Aitomation(自動化):
 ・機械は筋肉の機能を代替し、ソフトウェアは左脳の機能を代替した。
  自動化されて、プルーワーカーと一部のホワイトカラーの仕事は無くなった。
 ・米国の離婚率は50%だが、その弁護士料として2500ドル必要だった。
  しかし、CompleteCase.comという1/10のコストで離婚手続きの書類を作成
  できるWebサービスが登場。
 ・他にも14ドルで遺言を作成できるWebサービスもあり、会計ソフトの
  「TurbTax」は39ドルで、2100万人が使用している。
 Abundance(豊かさ):
 ・豊かな社会では、所有物が多すぎて、個人が倉庫を借りている。
 ・デザイナー・トイレブラシは、世界で誰も作れず、顧客の望みを叶える
  デザインであり、もはや機能のみでは勝負できない。
 ・デザイナーハエ叩きは、原料のプラスチック代は5円程度だが、14ドルで
  売られている。その差が高い利益率となる。
 ・殆どの価値は効用(Utility)からではなく意義(Significance)から生まれて
  いる。


○今を生き残るための3つの質問
 1.海外より安くできるのか?
 2.コンピューターより早くできるのか?
 3.効用と共に意義を提供しているか?


○経済のパターン
 1.18世紀:農業の時代・農業経済(農民)
 2.19世紀:工業の時代(工場労働者) →豊かな国が貧しい国から輸入
 3.20世紀:情報の時代(ナレッジワーカー)
 4.21世紀:コンセプトの時代(創造する人、他人と共感できる人)
 →「第三の波」のトフラーの考え方に「第四の波」とも言える事が
   起きている。
 ちなみに、「ハイコンセプト」(邦訳書名)を当初「第四の波」にしたいと
 大前さんからトフラー氏に相談したら、当然だが断られた。


GMのRobert.Lutz副社長のメッセージ
 ・GMは芸術、芸能ビジネスをやっている。車は動く彫刻である。


○右脳の創造に関するキーワード
 1.デザイン
 2.物語
 3.シンフォニー(全体の調和)
 4.共感
 5.遊び心
 6.生きがい
 →ハイコンセプトは、人間的な部分であり、人間の能力で本質的なもの。
  全ての分野で右脳的な考え方が必要となっている。


○様々な業界における事例
 ・商品パッケージ、どこで作られたか、農場や会社の物語をつけて、
  ほかの商品と差別化を図ることで、マージンを厚くすることが可能。
 ・ストーリー・ベース・マーケティングにより、スートーリーに余計に
  お金を出す人がいる。
 ・トヨタプリウスは、決してガソリン代の節約になっていない。
  →プリウスを購入する層は、「空気を汚さない生活をしたい」と考え、
   そのことに意義を感じてお金を払っている。
 ・形の無い商品である保険、特に生命保険は、100年位前に作られた成熟
  産業であり、同じ数学の計算式により商品が開発されるコモディティ商品
  Nationwide Insurance社は、Webサイトで「弊社がどのように役に立ったか、
  教えて頂いた中から、良い物語をタイムズスクウェアに飾る」とし、
  ハイタッチなサービスを始めている。
  まだ満たされない、気づいていないニーズを探し出すことで、チャンスは
  あるかもしれない。例、賃金保険など。