最近、「社会起業家」に興味を持ち始めている。本書は写真家の渡邊奈々さんが、2000年夏から2005年春にかけて60人の世界を代表する社会起業家に会いに行き、まとめられた物である。

彼ら60人に共通していた事は、「みな清々しい嬉しそうな表情をしており、謙虚」だったこと。
エピローグで著者が、米国の友人に「米国人と日本人が決定的に違うことを気づいた。日本人には、自分より恵まれない人達に対するコンパッションがない」と投げかけられた事が、本書を書くきっかけになったそうだ。
コンパッションとは、「単なる同情を越えて、他人の気持ちを思いやり、苦しみを分かち合う」という意味。
19世紀に米国を訪れ『アメリカの民主政治』を著したフランス人のアレクシス・ド・トクヴィルの体験記に、17世紀初めにアメリカ大陸に渡った清教徒が、キリスト教の厳格な解釈による「助け合いの精神」を軸に米国を築こうと試みた書いてあり、「思いやりの週間」が伝統的に米国社会を支える共通の精神であると理解したそうだ。


チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える

チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える


<読書メモ>


○社会起業という新たなコンセプト
 ・「Social Entrepreneurship(社会起業)」というコンセプトは1997年〜
  1998年頃から米国の一部のエリート達の間で注目され始め、新しい職業
  選択肢のひとつとなってきた。
 ・ハーバードMBAスタンフォードMBAでも2000年秋からソーシュル・
  アントレプレナーシップの講座が開講されている。
 ・経済的なリターンだけでなく、社会的なリターンを同時に追及する
  「ソーシャル・ベンチャー」という新しいビジネス。


○日米の非営利組織数
 ・国税局に登録し、税制の優遇措置の対象になっている非営利組織数

1989年 46万4千団体
1998年 73万4千団体
2004年 140万団体*

*3万件以上ある宗教団体を含む

 ・日本のNPO法人
  1998年に法制度が整備
  2004年に、約2万団体
  米国のNPOのように、寄付者に対する所得控除等の税制優遇措置を受けて
  いるNPO法人はごく一部に留まる。


○米国の寄付に対する課税システム
 ・米国では80年代のレーガン政権以降、公共サービスの民間委託が広まり、
  同時に寄付への課税免除が計られた。
 ・寄付は殆ど100%全額が経費と見なされ、寄付金を所得から引いた残額に
  所得税が課せられる。
 ・小額でも政府に納めるより、自分の支持したい社会改革や文化保護の
  団体に寄付した方が個人の社会への参加意識が深まり、実際に何かを
  変えるパワーとしてお金が生かされる仕組みになっている。


○ビル・ドレイン(アショカ財団代表)
 ・「ソーシャル・アントレプレナーシップの父」と呼ばれる。
 ・1982年、マッキンゼーのコンサルトとして働きながらアショカ財団を設立。
 ・アショカとは、紀元前3世紀にインド統一を始めて成し遂げて平和を
  もたらしたアショカ王に因んでいる。
 ・優れた社会起業家を「アショカ・フェロー」として選抜し、資金援助
  だけではなく、物心両面から支え、政治的な危険からも守る活動をしている。
 ・1985年までに36人の社会起業家を探し、2004年には1600人を越えた。


○秋山をね(インテグレックス代表取締役)
 ・高潔さ、潔白さを意味する「インテグリティ」とチェックするという意味の
  「X」を組み合せた社名に、ミッションを塗り込んだ。
 ・2001年1月に、同僚の西森が、企業の社会責任(CSR)の研究で第一人者の
  麗澤大学高巌教授のセミナーを聞き、社会責任投資(SRI)と呼ばれる
  投資家の倫理観や価値観を反映させる株式投資のあり方を知った。
 ・全上場企業(約3600社)を対象とした「企業の誠実さと透明性」を測る
  SRIのための調査を毎年実施。
  2001年には469社、2002年は607社、2003年は877社が回答に応じた。
 ・2004年5月、SRIファンド第1号「ダイワSRIファンド」誕生。


○デビッド・グリーン(プロジェクト・インパクト代表)
 ・「医療と薬品を、貧困層にも行きわたらせる」という社会使命を掲げる
  医療ソーシャル・ベンチャー
 ・世界には4500万人の盲人がおり、視力が残っている不自由な人を含めると
  1億8千万人おり、その9割が発展途上国に住んでいる。
 ・インドで安価な眼内レンズを製造するオーロラブ者を設立し、レンズの
  価格を1ヶ300ドルから10ドルに下げ、年間70万個生産能力を持ち、
  2004年には年間150万度目の利益を出している。
 ・白内障手術を請け負うアラビンド眼科医院は、念か22万人の手術を行う
  世界最大の眼科医院となり、患者の収入に応じて無償、実費以下、
  実費以上の三段階の費用で対応しているが、寄付に頼らない独立経営を
  可能にしている。


○国境無き医師団(MSF)
 ・1971年、フランス人医師が設立。
 ・「政策」より「人道」を郵船する精神に共鳴した賛同者は77カ国に上る。
 ・世界19カ国に事務所を持ち、フランス支部だけでも120人のスタッフを
  抱える。
 ・年間運営費は約3億7380ユーロ。資金の8割は260万人の個人や民間団体
  からの寄付で成り立つ。