タイトルが目に飛び込んできて、著者が元国税調査官の大村大次郎氏だったので、読んでみた。格差社会を生んだ要因について税金の切り口で説明が展開されており納得できた。「フリーター問題は税金問題」とする説明には目からウロコが落ちた。

税理士は、元々国税職員の定年退職後の再就職先の為に作られた資格制度で、国税職員として20年勤務すれば税理士の資格がもらえるそうだ。

あとがきに、書かれていた著者のコメントが心に残った。

「税」は「のぎへん」に「よろこぶ」と書く。
元々は「貯蔵していた稲」のことを言っていた。
天災の時の為に収穫の一部を貯蔵する習慣があり、そのうち1年経ったものを税と言った。
1年経過したという事は天災が無かったということであり、人々が1年間の無事に過ごせたという証だった。
税は人々の生活を守る大切なものであり、決して他ことに使ってはならないものだった。



<読書メモ>

○急激に変化した税制度
・ここ数十年、急激な変貌を遂げているのが税金。以前の税金は、金持ちから多く取り、貧乏人に配分するという仕組みから、貧乏人から税を取り、それを金持ちに配分するという仕組みになりつつある。
格差社会は、人為的に税金によって作らたものであり、勝ち組になっいる人は、その事にいち早く気付いた人達である。


○税は国の文化を表す
・米国の税制
  貧困層の税は安く設定されているが、一定以上の高額所得者になると税率がぐんと下がる。
  →近代的な社会システムとアメリカンドリームを両立させる仕組みになっている。


格差社会を生じさせた1冊の本
・『竹中教授のみんなの経済学竹中平蔵
 「日本は労働分配率が高い、だから経済成長が止まっている」
 「労働分配率を下げれば、家計は苦しくなる。でもその分を投資で儲ければ補える。」
 →結果、会社は国の支持で賃金を抑え込んだ。
  政府は、平成15年の証券税改正で、株価を上昇させる為に投資家に対し大幅な減税を行った。


○なぜ貧富の差が生まれたのか
・税金が格差社会を生じせしめた最大の要因
・1980年代までは、高額所得者の収入の8割は税金で取られていたが、現在は最大でも5割しか取られていない。
・株の売買益に対しては2割しか課税されていない。
・消費税、介護保険社会保険の値上げで、庶民は負担増。
法人税は10%以上引下げられ、高額所得者は20%以上引下げられた。投資家は最大50%減税された。
・2007年の統計では、税金と社会保険料を合わせた国民負担率は40%。
 →これは江戸時代の農民の年貢(実質3割程度)よりも高い。
 →つまり、全国民の40%は税金で食わせてもらっているということ。
 →高齢者は全国民の13%しかいないので、残り27%は税金を食って生きている。
・2006年の税制改正では、株主と経営者が同一の中小企業を狙い撃ちにした増税が実施された。
 →経営者と会社の合計所得が800万円以上になると社長の給与所得控除が受けられなくなり、所得税が倍になる。


○サラリーマンは今でも戦時中「税金は取りやすい所から取る」
源泉徴収税は戦時中に作られた特別税。
・戦前は酒税。物品税の割合が高く、サラリーマンに税金は課されていなかった。


○役人はなぜ税金を無駄遣いするのか
キッザニアの建設費35億円に対し、私の仕事館の建設費581億円。(毎年17億円の赤字)
・役所は収支を気にしなくて良いので、税金は必ず無駄遣いされる。
・役人の価値観は、「予算獲得=売上」「税金をたくさん使った者の方がエライ」
・役所には、予算削減をして評価される仕組みは一切無い。
・役人は、その仕事が役に立つか立たないか、ムダであるのか無いかを一切考え無い。
・予算は必要な物だけ計上する建前になっているので、一旦計上された物は必ず必要なもので、不要になるはずが無いという考えになってしまう。
・キャリア官僚は国家公務員全体の2%以下。
 国税庁には財務省採用の「のぞみ」組と国税庁採用の「こだま」組がある。


○税金の全貌を正確に知っている者はいない
・日本の税金の使い道は複雑に絡み合って、訳が分からなくなっている。
・多重債務者が正確に把握しておらず、次の支払いの事しか見えていないのと同じ状況。


○白い予算と黒い予算
・一般会計は表面上、歳出の縮小を重ねているが、裏の財布である特別会計にはメスが入れられていない状況。
 →塩川財務大臣「母屋でおかゆを食べてるのに、離れではすき焼きを食べている」
特別会計は、国会のチェックが不要であり、財政投融資(郵貯公的年金な国民のお金を投資)という形で支出されている。
 →支出ではなく貸付なのでチェックされないが、貸付と装いながら事実上は支出され、投融資先はそのまま着服している。
 →このカラクリを国会で追及しようとして、石井紘基議員は、追及中に暴漢に刺殺された。


公益法人は税金の浪費
公益法人はキャリア官僚の天下り先を作る為に設立された。
・同期の1人が事務次官になると他の同期は皆辞めるという不文律があり、50代で役所から放り出される。
公益法人の認可は大臣が行うので、官僚の意のまま設立できる。
・公務員ではないので、報酬規定がなく、高い報酬と退職金を払うことができる。
・公的機関でもなく、民間企業でもなく、法人税がかかっていない。
・官僚とコネがあって金のある者が、国の補助金の受け皿と独占営業権で潤う仕組み。


特殊法人
・国と地方自治体の外郭団体であり公的機関
・国などの出資100%で作られるので、簡単に設立できない。
NHK法人税を支払っておらず、職員の身分は公務員並みに保障されている。
 →法人税を払わないという事は、税務調査を受けないということ。


社会党(現・社民党)の失策
・消費税を導入したのは社会党
配偶者特別控除を廃止したのも社会党。(最低でも5万円の節税効果があった)
 →当該控除があるから、女性の自立が育まれない、女性が社会にもっと出るようにせねばならないと主張。
 →実際には、社会に出て働けるのは一部の女性だけで、社会に出ようにも出て行けない女性が多い。


自治体の危険度を調べる方法
・市町村税、都道府県税は全国一律なので、国民健康保険税が安い方が財政の良い自治体。
 →同規模の自治体では、福岡市と広島市では年収500万円で広島市の方が3〜4万円安い。


格差社会を広げる消費税
・収入の殆どを消費しなければならない低所得者に最も高い税率を課し、貯蓄や投資をする余裕のある人程、税率が低くなる仕組み。
・消費税導入は、新たに10兆円の財源となったが、同時に行われた大企業や高額所得者への減税で消えてしまった。
・消費税は払う人と受け取る人が顔を合わせない「顔が見えない税金」なので、文句を言う人が少なく増税しやすい。
・消費税導入前には、贅沢品にかかる「物品税」があり、現在の消費税の20%以上の税収があった。
・高級料理店に課せられていた「地方特別消費税」も廃止された。


○フリーター問題は税金問題
・現在の税制では、企業にとって正社員を雇用すると不利
 →社会保険料の値上げは人件費の増加
 →平成10年より退職給与引当金(退職金支払の積立金を経費計上だきた)が廃止された結果、退職金を廃止・減額する企業が急増し、退職金が不要な非正社員ほ多用する結果となった。
・消費税は間接税だが、実は人件費にかかる税金。
 →「社会全体で5%物価を上げましょう。企業はそれで5%利益が増えるので、その分を税金として支払いましう」という税金。
 →消費税は「課税売上−課税仕入」→「(売上−経費+人件費)×5%」→「(利益+人件費)×5%」で算出される。
 →人件費には消費税はかからないという前提となり、企業にとっては利益と人件費にかかる税金となる。
 →法人税は利益に掛かってくる税金だが、人を雇うと消費税が高くなる仕組みとなっている。


公的年金の欠陥は格差を生む
・支出:定期間支払った年金保険料に応じてもらえる仕組みなので、たくさん払った人はたくさん貰える。
・徴収:社会保険料には上限(年収1千万円くらい)がある。
社会保険費はGDP比4%で、先進国中再会だが、国民は40%近くの負担をしている。
社会保険費は一般会計の中では最も大きいが、特別会計も分母に入れると1割にも満たない。
・夫婦の年金暮らしなら300万円くらいまでは所得税はかからない。
・年収1千万円を超える老人が3%くらいいる。
・現在、国庫が負担している年金は6兆円程度。(一般会計の7%)


財政赤字の要因は公共事業
・1990年代に総額600兆円以上の公共事業政策が実施され、その借金がそのまま財政赤字となっている。


税務大学校の教官の話
「金持ちはどんなことをしても税金を逃れるもの。全然税金を払ってないのに、すごくいい生活をしている金持ちもたくさんいる。今の税制度では、本当の意味で金持ちから税金は取れない。本当に金持ちから税金を取ろうと思えば、資産そのものに税をかけるべき」
 →日本の税制は収入を得た時に税金をかけるのが原則だが、1億円以上の資産をもっている人に、毎年1%の税金をかけるだけで、概算で50兆円以上の税収となる。