NPO法人自立生活サポートセンター「もやい」の湯浅誠氏の著書を読んだ。貧困社会と格差社会の違い、貧困は意図的に作られているカラクリが、良く理解できた。1969年生まれの同い年にこんな立派な人がいて、誇りに思う。

「あとがき」で、湯浅氏は「」本を買うお金のない人に、この本を読んでもらいたいから、地元の図書館にリクエストしてほしいと読者にお願いされていた。
[rakuten:book:12930739:title]』の著者・クリス岡崎氏が、買うに値しない同書の中で、読者に対し「自分で複数買って、友人にプレゼントしてほしい」と自分勝手なことをお願いしているのとは、雲泥の差である。(笑)

付録に、「生活保護費自動計算ソフト」(エクセル)が付いていて、住んでいる地域や世帯人数・年齢、義務教育を受けている子供・障害者の有無などを打ち込むと、家族の最低生活費が計算される。世帯収入の入力欄もあり、生活保護を受けられるかどうかの判定もできるスグレモノのソフトである。兵庫県弁護士会の阪田健夫氏が提供してくれたそうだ。



貧困襲来

貧困襲来


<読書メモ>

○貧困は収入だけでは決まらない
・低所得でも必ずしも「貧困」ではない。低所得は貧困とはいわない。
・貧困というのは、お金だけの問題ではなく、いざとなっても頼れる人がいるかどうかが心の余裕に繋がる。


○貧困の「五重の排除」
1.教育課程からの排除
 ・2001年春に大学を卒業した世代の試算(『新卒無業。―なぜ、彼らは就職しないのか』)
  1994年に中学を168万人が卒業。うち高校進学者は97%。→5万人は中卒。
  1997年に高校卒業者のうち、就職組は22.8%で34万人。うち48%は3年以内に離職。無業者は7.6%の11万人。
  1999年に短大卒業者のうち、59.1%の11万人が就職。うち41%が3年で離職。無業者は21.8%の4万人。
  2001年大卒で新規採用された31万人のうち、3年以上勤務しているのは2/3の20万人。全体の27%で、約4人に1人にすぎない。
  →中卒、高校中退、高卒で世に出た人は168万人のうち47万人にのぼる。
   
2.企業福祉からの排除
 ・派遣の経費は、会社の経理上は「人件費」ではなく「材料調達費」に分類され材料の1つの扱いとなる。

3.家族福祉からの排除
 ・一家の大黒柱がしっかりと働いているのに貧困な家庭(働く貧困層生活保護基準以下の状態)が総世帯数4千世帯の約1割いる。

4.公的福祉からの排除

5.自分自身からの排除
 ・「成果がでなければ努力していない」を受け入れる2つの対処法
   1.「自分のやりたいことはコレじゃない」→自分のやりたいことすら分からないダメ人間と追い込まれる。
   2.「おれはこれでいい」と開き直る→降りた先に待ち受けるのが貧困。


○貧困とは「溜め」のない状態
 ・「溜め」は、外からの衝撃を吸収し、エネルギー源の働きを持つ。
 ・「溜め」とは金銭、人間関係、精神的な自分への自信、気持ちのゆとり。


○隠れた貧困問題
 ・2004年に自己破産した20万人のうち、貧困が原因でサラ金に手を出してしまった人は24.47%。
  →自己破産しても、ヤミ金の被害者予備軍となるだけ。
 ・1997年から自殺者は急増し、毎年3万人を越える。うち8千人が生活苦が原因。
  →色んな問題の影には、貧困原因が隠れている。
 ・「捕捉率」(生活保護基準以下で暮らす人のうち、実際に生活保護を受けている人の割合)を日本政府は1966年から40年以上調べていない。
  →アメリカでは毎年調査され、2006年は8人に1人が貧困。英国は90%。独は70%。


○貧困と格差は別物
 ・格差を縦軸、貧困を横軸で考えねばならない。
 ・格差も貧困もどんどん広がっている社会を問題としなければならない。
 ・下に合わせていく格差解消だと、格差が消えた後に膨大な貧困が残ることになる。


生活保護の現状
 ・1995年を底に生活保護の受給者は急増し、現在150万人となっている。


社会保障費の財源論
 ・消費税を3%→5%にした時は、社会保障費が足りないからというのが理由であったが、実際には法人税引き下げを保管する財源となっている。
  →法人税が20兆円→10兆円に下がった分、消費税が10兆円となり補完している。所得税は25兆円→15兆円減少(2005年度)


貧困ビジネス
 ・誰にも頼れなくなった存在の寄る辺なさに漬け込んで、利潤を上げるビジネス。
 ・貧困ビジネスの多くは、「社会的企業」という装いをまとい、行政が手を出さなくなった領域で収益を上げている。
 ・規制緩和によって生じたスキマ、貧困を隠して見えないままに留めておこうとする政府、貧困を見ようとしない社会、こうした要因がきれいに重なったところで、貧困ビジネスは成長する。
 ・貧困ビジネスは、もう既に立派な社会資源の1つになっており、公的セーフティネットにとって代わりつつある。
 ・日雇い派遣者は、労働者としての諸権利をかなぐり捨てたところで、初めて人間としての生存を維持できるという状態。
 ・消費者金融は貧困者に漬け込んで、過剰与信でお金を貸す。貧困を作り出すことで好業績を上げている。
   →生活保護を昨日させない行政と、低金利で融資しない銀行との暗黙のタッグの結果。
 ・エム・クルーは生活困窮者をターゲットにした企業。
   →代表の前橋靖氏も元ホームレスで、元ホームレスがホームレス状態のフリーター向けのドヤを経営する図式。
    レストボックスは労働基準法に基づく「寄宿舎」で、同社の「クルー(社員)」として労働(1ヶ月に64時間以上)に従事する事が前提。
 ・レオパレス21が入居者と結んでいるのは賃貸契約ではなく、施設の部屋利用契約。
   →通常の賃借人を保護する借地借家法は適用されないという理屈になる。
 ・スマイルサービスの契約は、「施設付鍵利用契約」。
   →毎月の前家賃支払が1日でも遅れたら会員資格を失うと供に、「鍵利用権」を失う。
 ・フォーシーズは連帯保証人に代わって家賃保証昨日を担う保証人ビジネスを展開。
  2001年から家賃保証業務を始めて、2005年までに家賃保証件数1マン4704件、8億5千万円の立替実績を持つ急成長企業。
  2006年9月の時点で、大田区、世田谷区、板橋区、中野区、野田市さいたま市の民間住宅居住支援制度の協定業者となっている。
   →立替払いを受けた賃借人は、フォーシーズに対して償還義務と日歩10.96銭(年利40.004%)という利息が付く。出資法の上限金利29.2%を越える刑事罰相当の違法金利
 ・日本人権連合は、90年代末に路上に現れ、野宿者をリクルートし、社会福祉法に基づく無料定額宿泊所に入所させ、生活保護を取得させていた。
  当時は、無料定額宿泊所には施設基準がなく、生活保護の住宅費は何人詰め込んでも地域の上限額が至急されていた。
   →現在、NPO法人エスエスエスとして活動しており、2005年10月時点では東京・神奈川・埼玉・千葉に127ヵ所、4138名定員の施設を所有。
    2000年以降、新規参入が増え2006年6月時点では全国で1万2千人が無料低額宿泊所で暮らしている。