高杉良氏が講演をされるということで、立教大学に行って来た。本人曰く、「最初で最後の講演会」で話を聞けた本当に貴重な講演会であった。

講演終了後に、花束を渡していた女性が、佐高信氏のご令嬢だったことも、私にとっては大変感激する演出であった。<講演メモ>
講演テーマ:「メディアは経済と企業をどのように伝えてきたか」

経済小説における二人の功績は大きい(高杉氏が選ぶ代表作)
城山三郎:『小説日本銀行 (新潮文庫 し 7-7)』『毎日が日曜日 (新潮文庫)』(高度成長期が始まる頃の商社マンを描く)
清水一行:『小説 兜町(しま) (徳間文庫)』(昭和40年代の証券業界を描く)

米国で有名なアーサー・ヘンリー氏の作品(『自動車 (新潮文庫 ヘ 4-4)』『ホテル 上巻 (新潮文庫 ヘ 4-1)』)は、フィクションというジャンルでしかなく、経済小説というのは日本固有のジャンルである。
城山氏は「足軽作家」と言われ、取材の為には何処にでも足を運んだ。自分も城山氏に習っており、取材に7〜8割、執筆に2〜3割の時間配分で仕事をしている。連載が始まる時には、作業の2/3は終わっている。
経済小説の生命線はリアリティであり、その為には取材にエネルギーを費やす必要がある。
もう直ぐ68歳になるが、2本の連載を抱えている。


○行き過ぎた市場原理主義への警鐘
・2005年3月に中学の50周年同期会の席で、友人に「ホリエモンを小説にしたらどうか」と言われたり、同期の社会科の教員がホリエモンを絶賛する等、世の中の考え方が拝金主義、市場原理主義に犯されてしまった。
 →自分は最初から、ホリエモングリーンメーラーでしか無いと思っていた。
・2006年9月3日のテレ朝「サンデープロジェクト」にて立教大学の学生(789人)の「尊敬する経営者アンケート」が紹介された。

1位 松下幸之助
2位 孫正義
3位 ビル・ゲイツ
4位 堀江貴文
5位 本田宗一郎

 既に刑事被告人になっている人間を経営者として尊敬しているという結果に危うさを感じる。
村上ファンドの一番の出資者がオリックスの宮内氏であったが、国会での参考人招致がウヤムヤになってしまった。


○権力とメディアの癒着
・全メディアが「郵政民営化無くして改革無し」の小泉路線に乗ってしまった。
 郵政民営化は、勉強すればするほど疑問が出てき、拙速にやるべき事ではない。マスコミは民営化を持ち上げてしまった経緯があり、地方にとってライフラインである郵便局はズタズタの状況であることわ報道していない。
石原都知事は、週に2〜3日しか都庁に出勤しておらず、また都の資金で設立した日本振興銀行で1500億円のロスを出してしまったことに対し、自らの責任には触れず「テコ入れが必要」と回答した。
 日本振興銀行問題の超本人の木村剛氏について、マスコミは検証せずに「新しい風」と絶賛してしまった。
→マスコミは自らの間違いを決して訂正せず、常に誉めっぱなしで放置してしまう。
・『サンデープロジェクト』で「小泉の支持率は50%を超えている」と言った田原総一郎氏に対し、亀井静香氏が「それは君が誉めているからだよ」と言ったが、正しく的を得ている。


○トップの責任
ホリエモン外資系ファンドによって、350億円のロスを出したフジテレビの日枝氏がトップに居座っているが、公開企業で許されるのは日本だけである。
・リストラ(首切り)は最後の手段であるはずであり、これに手をつけたらトップは自ら退任すべきなのに、リストラをしないと格付けのランクが下がってしまうという状況になっている。
 「昔はMOF担。今は格担」と最近は言われている。
経団連が政治献金を再開すると決定した時、みずほ銀行の広報担当役員に「3人の社長に、みずほが献金をするならば、高杉が必ず書くと伝えてくれ」と電話をした。結果的には安倍総理の配慮で献金を免除された。株価が一時期58円まで下がったが、直近の決算では6300億円の戻し益がでてしまいトヨタを超えたと言われたが、この事で如何に金融庁の行政指導がいい加減だったかが露呈した。


○メディアのいい加減さ
・中坊氏が住宅金融債権管理機構を無給で引き受けた事に対し、マスコミは絶賛して報道したが、注目されることで中坊氏が得た莫大なメリット(1度の講演で領収書無しで100万円を受領、本の執筆で相当な印税など)を得ていた事については殆ど報道されていない。
 中坊氏は司法取引で弁護士資格を返上する事で追求を逃れた。
・今まで75作程の経済小説を執筆した中で一度も訴えられたことは無かったが、『乱気流―小説・巨大経済新聞 (上)乱気流―小説・巨大経済新聞 (下)』(大手町界隈では即日完売となった)で初めて言論人(日経新聞鶴田卓彦氏)から名誉毀損で訴えられている。今年3月末に判決が出るが、800万円の和解金支払いを要求されている。読売の渡辺恒雄氏からは最後まで戦い抜けと激励さけている。
 日経新聞は経済情報を独占しており、株価に影響するので企業が迎合している。現役社員7人も逮捕者が出たマスコミは他にない。会社全体が病んでいる証拠である。
 日経以外の新聞社は、入社後6年間、地方でサツ廻りをさせられたり言論人の心構えを教育している。


○これまでに戦う作家として命の危険を感じた作品
・『労働貴族 (徳間文庫)
 日産を破滅に導いた張本人塩路一郎がモデル。真夜中に頻繁に脅迫電話があった。
・『濁流〈上〉―企業社会・悪の連鎖 (角川文庫)』『濁流〈下〉―企業社会・悪の連鎖 (角川文庫)
 財界のフィクサーを名乗っていた経済界主幹の佐藤正忠がモデル。連載中に内容証明郵便が山ほど届き、連載中に主人公の名前へ変更した唯一の作品。
・『呪縛〈上〉―金融腐蝕列島2 (角川文庫)』『呪縛〈下〉―金融腐蝕列島2 (角川文庫)
 殺意を示すピアノ線が玄関のドアに挟まれて、ヤクザがウロウロするようになり、高井戸警察に1年間監視して貰うことになってしまった。
→この3作品以外では、何も言われたことが無い。つまり緻密な取材をしているし、揉めたら小説に書かれてていない事まで表面に出てしまうから。


○好きな言葉
レイモンド・チャンドラーの言葉
 「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない
・「どれだけ人に優しくできるか」を人の人格を測る尺度としている。
 近年は世の中がスサンでしまい、自分の事しか考えない人が殆どになってしまった。

○実名小説の使い分け
・媒体の方針で、月刊現代はドキュメントに近い作品を要求されるので実名となる
・自分が、実名でやっつけたいケースと称えたいケースもある


○スポットの対象はミドル
・中間管理職のミドルは切なく辛い思いをしており、組合員ではない為、真っ先にリストラの対象となる存在。ミドルにエールを送りたい。


○小泉・竹中路線が残した傷跡
・行き過ぎた市場原理主義による格差社会(米国では上層階級の1%が30%の富を占め、上位10%が60%を占める超格差社会)
 今後、地方は益々悲惨になり、東京とトヨタの拠点の名古屋だけが恵まれる地域となる。
ロースクールの導入で訴訟社会の到来。米国では弁護士が訴訟ネタを作っている。
 

佐高信氏との関係
・思想は全く違うが、気持ちはお互いに似ている。佐高氏は顔は怖そうだが、本当に自分の事を気にしてくれているやさしい人。互いにバツイチという共通点もある。
 佐高氏に自分の作品の半分くらいの解説を書いてもらっている(講談社の解説は全て佐高氏)。