IBM「経営管理フォーラム2007」で、元産業再生機構の冨山和彦氏が講演された。新会社の経営共創基盤を設立され、引き続き経営のプロを育てていかれるそうである。
7月12日発売予定の著書『会社は頭から腐る』(ダイヤモンド社)を是非読みたいと思う。
会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」
- 作者: 冨山和彦
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2007/07/13
- メディア: 単行本
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<講演メモ>
講演テーマ「リーダーシップの本質」
○不良債権処理と企業再生
・産業再生機構の役割
企業側:財務リストラ(過剰債務をカット)
事業ターンアラウンド(黒字に転換し、実質企業価値をアップ)
・金融再生プログラムの役割
銀行側:預金債務(1兆円カット)←公的資金投入、財務体力強化
バランスシート調整により、不良債権減少
○産業再生機構の案件
・全41件 3/4が地方の未公開企業
・実際には、3倍以上のデューデリジェンスを実施したが、妥協をしなかった結果、
キツイ手術の実施を飲んだ会社に絞られた。
・再建案件の問題は2種類。
1.マネジメントリーダーシップの問題
→この場合、「聖域」に切り込めるかが、重要な点となる。
2.バブル崩壊のあおりを受けたケース
・案件となったカネボウも三井鉱山も、慶應閥の歴史の古い会社であり、60〜70年前
には、日本でNO.1の会社だった。
・再生機構は、政府部門として資本コストゼロの会社であるので、最初に手をつけず
最小限の活動しかしていない。
○自ら敗戦処理ができなかったカネボウ
・カネボウについては、繊維部門は全売上の半分にまで小さくなり、多角化に成功。
しかし、繊維業は規模が大きい必要があり、繊維の全ての部門が4〜5番手であり、
赤字が増加、早めに繊維部門を諦めるべきであった。
→なぜ合理的な意思決定ができなかったのか?
全役員が内部昇格の繊維出身者で、創業事業撤退の決断ができなかった。
化粧品で稼いで、全体で黒字になっていた。
・役員はサラリーマンの上がりのポストで、全役員はダメだと分かっていたが、
自分の任期の間は、将来の後輩の為には、問題を直視しなかった。
・アクティブ・アカウンティングで黒字にしていた。
→デューデリの結果、1兆円のうち4千億円しか数字が合わなかった。
残りの6千億円の内訳の中には、20年前のアイスクリームの在庫があった。
製造時の原価で帳簿にのったままのアイスクリームの在庫が10億円あった。
冷凍食品には賞味期限がない。
雪印とは違い、市場に流して絶対に消費者に迷惑をかけないという生真面目さは
カネボウにはあった。
→会社の仲間を守る為、全社員が善意で努力した結果が、6千億円の経理処理。
・エンロンは明らかに儲けた主犯がいたが、カネボウは誰も得した者が見当たらない。
○経営は人間の弱さに突き当たる
・マスコミ的正義である「戦略的・経済的合理」→冷徹に講堂できる人は少ない。
・家族を守る情理・情けの「共同体の合理」→リーダーシップを惑わせる原因。
→2つの葛藤の結果が、事情を知れば知るほど理解できる。
・順張りにマーケットは動いてしまう。
→サラリーマンは、1人負けになってしまうので、マーケットと反対の逆張りは
できない。
・それらを前提にリーダーシップは、頑張らねばならない。
・意思決定に関する技術論はあるが、本当に必要なのは決断し、責任を持つこと。
・産業再生機構が派遣した経営者で、知識不足や頭が悪くて代えたケースはない。
人をどう動かしたか、決断力で経営者を変更せざるを得なかった。
・再生先にはしっかりとしたデータは無く、大企業の人は、ストレス体制がないので、
結論を出せない。毎月1億円足りなくなり、血を吐くか下血してしまう。
○大組織の体質
・官僚は全てシミュレーションの世界であり、一流大企業ほど経営者を育てられない。
・試験エリートが昇進するが、試験は出題者が答えを用意し、物事を深く考える人は
正解できない。
・上司が期待する物を容易する事が評価される。←空気を読める能力が必要。
・そういう調整型の優等生がリーダーになってしまい、正解を探しに行く。
→銀行に行けば、自分達は債権の担保をとって最も良い事を言う。
→役所に行けば、自分血の保身を言う。
→全て立場の違う答えが出揃い、正解を導き出せない。
・大企業の人達は90%がいい人で、組織の仕組みの中で勝ち抜いてきた人。
○地方企業の再生
・うまくいった会社ほど役員に親族が多い。
・頭の良い子供は、東京に出たまま戻ってこないので、ダメな子供を重役にしていまう。
→社員の士気が全く上がらない。
・地方の名門企業ほど、子供はボンボン大学に進学し、JC仲間のシガラミ取引をしている。
・再生の手法は、仕事をしていない創業一族に去ってもらい、取引先を全て見直し。
○経営の難しさ
・経営で一番難しいのは人間にかかる所で、人に対する洞察力が無い人は経営はできない。
・人の心はお金ではなく、人望で買うべき。揉まれる苦労するしかない。
・六本木ヒルズの悲劇は、全て子供が経営ゴッコをしている事。
子供が「セーフ、セーフ」と言ってわめいているのと全く同じレベル。
ルールは社会的常識で判断される。
・学歴で東大が組織に増えると、成長が無くなってしまう。東大卒はリーダー向きではない。
日本の成長が止まるのは官庁が全て東大生のみだから。
・戦略論は10年経っても読まれ続けているものを読むべき。
ドラッガーは、原理原則しか言っていない。
・「収入−支出=利益≧0」 この式にするか、できなければ経営をやめるしかない。
意志と感情がある人間が、この式の結果を作っている。
・MBA系経営者は、合理に走り、合理に逃げてしまい、後ろに付いて来る人がいなくなって
しまう。
→合理と情理の矛盾を、経営者は1人で抱えねばならない。
・正しい答えは常に変わっていくので、常に自分が正しいのか考え直さねばならない。
・経営者はボロボロになって、先頭を走れないからバトンタッチすることになる。
・能力は、やらしてみないと分からないので、可能性で昇進させるしかない。
・人間は失敗からしか学べない。成功は自信にはなるが学べることはない。
→学歴エリートは負けたことがない。東大に入ったら勝負をしない。
・平和な時代は人材がでない。修羅場を経験すると人は育つ。
○リーダーの要件
・その人の志。哲学を持っている人。持つ意欲のある人。
・経営者はその組織のエリート。判断を間違うと仲間とその家族の人生を壊してしまう。
・責任があるから権力を持っている。
・世界観、人生観があればブレない。
→勝つヤツはブレないヤツ。哲学を持ったヤツが強い。
・将来、自分の子供に聞かれた時に、自分がやった事に言い訳がましくならないかどうか?
理由が長くなるヤツはダメ。