黒川清先生の著作を順番に取り寄せて、読んでいる。この本は1993年に「アメリカと日本」というテーマで開講された第80回東京大学公開講座をまとめたものであった。

アメリカと日本の医療」というテーマで黒川先生が担当されている。米国(15年)と日本の両国で臨床、教育、研究経験のある黒川先生だからこそ、説得力のある適任のテーマであると感じた。
むすびで、「アメリカでは優れた医師と設備を一部の人しか利用できないのに対し、日本では優れているかどうか判断できない、閉鎖的な医師と医療設備を比較的低価格で多くの人が利用できるシステムである」という非常に的を得た結論が書かれていた。
しかし、脳内メーカーで「黒川清の脳内イメージ」が「100%悪」となるのが謎である。




<読書メモ>


アメリカという社会
 ・オープン、公平、自由が引力となって世界中の優秀な人を、特に学問の分野で
  集めてきた。
 ・歴史が浅く、色々な人が混ざっているので「なあなあの世界」が成り立たず、
  なるべく多くの人によりよいシステムを常に求めて、それがはっきり書かれている。
 ・日本が世界の一員、地球市民の1人として生きていき、リーダーシップを発揮する
  ためには、踏め李下が積み立ててきた、できるだけ公平でオープンである」という
  システムから学ばねばならないところがある。
 

○医学教育と医師養成のシステム
 ・日本では、高校から大学医学部で6年間職業訓練を受け、卒業後は殆どが医者に
  なる。
  単に偏差値で医者になる素質を決めていいか問題になる。
 ・米国では、普通の4年制大学を卒業してから医学部に4年間行く。
  医学部進学には全国一斉の共通一次試験(MCAT)が年3回くらいあり、学部3年生
  時に受験する。
 ・米国では卒業するとないかでは3年間、外科では5年間のトレーニングを受ける。
  内科のトレーニング後に専門を2〜3年とるので、内科系で一人前になるには6年
  かかる。
  米国では医者として一人前になるには、高校卒業後、14年かかり、32歳頃になる。
 ・米国での教育は非常にオープンで、自分達同士で常に評価し合えるシステムがある。


○医師と患者の関係
 ・職業人としての医師と患者の間の信頼関係に、日米でかなりの違いがある。
 ・米国のように、全国ネットで医者同士の技術なり、職業人としてのあり方を
  切磋琢磨するというシステムでなければいけない。
 ・医師はあくまでも患者あったの職業人であり、患者のために役に立つような
  システムを作らねばならない。


○病院、診療所などのシステム
 ・東大病院は1日外来2500人、虎の門病院は1日外来4千人。
 ・米国では、日常的にはかかりつけの医者、ファミリードクター、あるいは内科の
  先生が診て、自分が治療できる範囲をこえると、すぐに専門医に紹介する。
  従い、大学病院に行って長く待たされて診察は3分ということは無い。
 ・米国の病院は医者が経営している訳ではなく、日本でいうとホテルみたいなもの。
  医者が開業しているビルがあり、メディカル・クリニックとかメディカル・
  アンド・アート・サイエンス・クリニックなどと書いてある。
  そのビルも医者同士が一部出資している場合もあるが、普通は医者が経営して
  いる訳ではなく、全体を経営している母体がある。
  経営者は医者である必要は無く、医者はオフィスを借りて、自分でビジネスを
  している。
 ・病院も同じで、病院は医者を雇って経営している訳ではなく、医者は自分の
  オフィスを持っていて、入院が必要なら、近くにある病院を使う。
 ・病院の経営者は、看護師やレントゲン、CTなどの機会をそろえて、ホテルと
  同じように、医者と患者にいかに良いサービスをするかに勤める。
 ・医者は自分の患者を入院させられる病院を近所に3つか4つ契約しておいて、
  その病院に入院させて、毎朝、自分の患者を診て指示を出し、夕方また来る。
 ・患者は病院をある程度選べるので、病院経営者としてもサービスの良い一流
  ホテル並みの病院にするか、二流のビジネスホテル級にするか、色々違う。


○医師の収入
 ・米国ては、入院すると医療費を病院に支払い、その中から医者は、プロフェッ
  ショナル・フィー(技術費・診療費)だけをもらう。
  診察、検査、投薬をいくらしても、医者には診察料(プロフェッショナル・
  フィー)しか入らない。だから、効かない薬は使わない。
 ・日本の場合は、薬を出すことによって医者の収入の30%位が賄われているので、
  効かないけれども副作用が出ない薬なら使うというケースも出てくる。
 ・薬がどう使われているかは、その国の歴史と医療システムによってかなり違う。
 ・1642年にドイツのフリードリッヒ2世という王様が、医者は薬局をもっては
  いけない、共同経営者になってもいけない、医者が薬を出すのもいけないと
  法律で決めた。
  伝統的に西欧では、医者が患者に薬を渡すというシステムはなく、医者は
  処方箋を書くだけで、患者は処方箋を持って薬局に行き薬をもらう。
  医者が誰かを毒殺しようとしても、悪い薬を渡す心配がない。
 ・東洋医学では、薬師(くずし)が医者の始まりで、「医者は薬をあげる人」
  というバックグランドがある。


○医療費
 ・医療費は日本ではGDP(国民総生産)の6%、米国では13%。
 ・医療費は日本で医療保険を買わねばならず、医療保険会社は千社近くある。
  米国の医療保健は自由競争で、日本の生命保険と同じ。
 ・日本の保険のように最初の20万円くらいを自分で払い、後は保険がカバー
  してくれる保険だと、家族4人で1ヶ月の保険料は800ドル位となる。
 ・米国では人口の18%に当る3700万人は無保険であり、65歳以上の老人と
  低所得層は、メディケア、メディケイドというプログラムで、政府・地方
  自治体から保障がされる。よって真面目に暮らしている中間層が一番辛い。
 ・米国の医療費が高い理由には、医療費が自由競争であることも関係がある。
 ・米国の問題の1つに、医療訴訟の増加がある。米国には弁護士が80万人、
  日本は1万5千人。米国では15年前から医療訴訟が増加している。
  医者は万一訴えられた時に、不必要な検査もせざるをえないディフェンシブ・
  メディスンが行われている一面がある。
  米国の開業医は年間約2万ドルくらいの保険をかけている。
  婦人科は内科よりリスクが高いので、年間5〜6万ドル、脳外科は10万ドルの
  保険をかけている。
  医者は保険料を自分の収入から払わねばならないので、診療費を上げざるを
  えず、訴訟が増えるほど医療費は高騰することとなる。
  弁護士の中には、救急車の後を追いかけるアンビュランス・チェイサーも
  いるという冗談がある。
 ・カリフォルニアでは5年に1階医師免許の更新をする。
 ・米国では3つの保険が提供されており、自分で選ぶ。
   1.どの病院でも診てもらえる保険
   2.HNO 入院できる病院が決まっており、医療費が安くなり保険も安くなる。
   3.PPO 診てもらえる医者がきまっている。
  保険のシステムによって病院の収入と経営方針をコントロールされる。