『起業バカ (ペーパーバックス)』の著作を持ち、ご自身が出版社を創業して倒産経験を持つ渡辺仁氏の講演会に行ってきた。東京商工会議所・足立支部の主催で、参加費無料にもかかわらず参加者全員医に著書『マザーズ族 Leading Entrepreneurs in TSE Mothers (光文社ペーパーバックス)』を配布して頂けた。
渡辺氏の「起業バカで終る人とマザーズ族になれる人は、経営者としてに大した差はない。マザーズ族の創業者の殆どが人間的に大したことはない。強いて言うならばマザーズ族になれた人は、時流を掴むセンスと、それをアピールする能力が少しだけ優位だった」というコメントが印象に残った。
ただ、渡辺氏は「インターネットを全くやらない」そうで、それでよく、最近のIT系ベンチャー企業の取材ができるなぁ、と感心した。
ミクシィに取材申込みの電話をかけたら、「メールで取材の趣旨をまとめて連絡しろ」と言われて、「インターネットをしない層を無視するのか?」と主張し、FAXでやり取りして、最終的に取材を拒否されたらしい。(笑)
インターネットを使わないのに、ITベンチャーにアプローチをかける、その根性に拍手を送りたい。
だからこそ、経営者の人間の本質を見れるのかもしれない。
マザーズ族 Leading Entrepreneurs in TSE Mothers (光文社ペーパーバックス)
- 作者: 渡辺仁
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/04/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (2件) を見る
<講演メモ>
テーマ「ベンチャー企業(市場)の光と影」
○渡辺氏の起業体験
・2002年に52歳で雑誌『インキュベーション』を立ち上げ、3年頑張って第7号まで
出版したが、最終的には大きな借金を抱えて倒産させてしまった。
・毎号2万部を発行し、1回の経費が500〜600万円かかった。
・ライターとして記事の内容に自身があり、身内、知人から1千万円集めて、
始めたが、出版界の因習で売上の回収が6ヵ月後ということもあり、資金繰りが
できなかった。
・敗因は、水物である出版のとい物をよく分からないのに手を出してしまった事と
事業を継続するのに十分な資金の不足の2点だと反省している。
・ライターとして力があるのと、経営者になれるのは別である。
○マザーズ以前と以後
・現在、ベンチャーがブームになっているが、1960年〜1970年代が、創業企業が
最も元気な時代だった。
・当時は、創業希望者が年間50〜60万人で、創業件数が年間30万社あリ、店頭公開
市場に年間70〜80社公開していた。
・近年は、創業希望者が年間120〜130万人で、創業件数は年間16万8千社で、
新興市場に年間150〜200社が公開している。
・近年のベンチャー希望者の大半は、マスコミに踊らされているのではないか?
○ベンチャー創業者像
・これまでにベンチャー創業者に約100人に会って取材をしたが、そのうち3〜4割の
創業者の考えに感心した。
・最近のベンチャー経営者は、誰にも負けない物を持っている人は少ない。
○株式公開(IPO)とは?
・「Initial Public Offering」→「最初に」「公に」「捧げる・献金する」
→利益を社会に捧げ、世の中に貢献すること。
○ベンチャー市場の勢力図
ジャスダック | 978社 |
NEO(2007年11月) | 1社 |
東証マザーズ | 200社 |
大証ヘラクレス | 171社 |
名証セントレックス | 31社 |
札証アンビシャス | 11社 |
福証Qボード | 10社 |
合計 | 1,401社 |
・東証マザーズ(1999年11月開設)以来、1年くらいで新興市場が6つ出来てしまい
各々の差別化が殆どされていない。
・新規開業の減少時代に、7つの市場が乱立し、生き残りをかけて、公開企業の
取り合いをしている。
○マザーズ公開企業41社(2006年)の創業者の創業年齢構成
20代 | 26% |
30代 | 46% |
40代 | 23% |
50代 | 5% |
・平均34.8歳で起業し、平均8.9年でマザーズに公開している。
○創業から株式公開までの最短期間ランキング
1位 | アクロディア | 2.3年 |
2位 | GCA | 2.6年 |
3位 | GABA | 2.6年 |
4位 | 比較.COM | 2.7年 |
5位 | リミックスポイント | 2.9年 |
6位 | マガシーク | 3.7年 |
7位 | ドリコム | 4.3年 |
8位 | ジャパンインベスト | 4.3年 |
9位 | アドウェイズ | 4.4年 |
10位 | エムケーキャピタルマネジメント | 4.6年 |
○ベンチャー市場の「光と影」を作り出す3つの要因
1.7つの新興市場の乱立と上場ハードルの低下
→IPOバブルではないか?
2.近い将来の市場再編を見越した「ベンチャーの囲い込み」競争
→グローバルな証券取引所の再編の動き
3.若手ベンチャー起業家の上場の怖さを知らない悪乗り
→特に20代の創業社長はIPOの本質を理解しておらず、証券会社などの
ステークホルダーに進められて、IPOしている。
→中には確信犯的にIPOでマネーゲームをしているケースもある。
○株価低迷に苦しむ上場ベンチャー(時価総額10億円以下)
・福岡Qボード:メディアファイブ(2.7億円)他3社
・名古屋セントレックス:アプレシオ(4.5億円)他5社
・札幌アンビシャス:イーシーユーズ(2.6億円)他3社
→時価総額は市場の需給で決まるとはいえ、投資家をバカにしている。
早期に上場廃止基準を作るべき。
・ドリコムは、最盛期の時価総額は150億円だったが、現在20〜30億円。
→大した技術力も無く、営業力も無く、光通信と合弁会社を設立したが・・・
○2000年のITバブル時に公開した企業のIPO時の調達金額
・サイバーエイジェント:250億円調達
・楽天:売上30億円で、500億円を調達(2000年4月IPO)
→三木谷氏も副社長も元々はM&Aコンサルタントで、現在の年商2千億円は
M&Aで作り上げた売上。
・オンザエッジ:売上4億円で、60億円調達(2000年6月IPO)
・マザーズ2号のリキッドオーデオジャパンは、売上37万円で公開。
○株式公開によるステークホルダー(証券会社・VC)の儲け
・公開支援・経営指導のコンサル料
→公開できてもできなくても、1社年間1千万円
・公開後のキャピタル・ゲイン
→ミクシィのIPOコンサル会社は、IPO時に数十億円の公開利益を得た。
・株式の売買手数料
→IPOさせると儲かるので、短期間に無理やりIPOをさせようとする。
○上場ベンチャー社長が落ちる「7つの罠」
1.IPO後の狂った金銭感覚
→マザーズ公開会社の半数がインテリジェントビルに事務所を移転。
2.世間やマスコミの評判に晒され、浮かれてしまう
3.金の亡者、闇勢力の甘い誘惑
4.IPOによる幹部社員の仲間割れ
→ストックオプションを行使し、創業メンバーが離脱
5.ライバルや大企業の嫉妬
→ニッチ市場に注目され、潰されてしまう
6.株価維持を狙った粉飾決算などの誘惑
7.四半期決算による厳しい株主の眼
→本業を忘れてカネに狂って、全てを失う「無免許社長」が続出している。
○IPOの是非
・そこそこ儲かっている会社はIPOすべきではない。
・これから更に大きく儲けようとするならIPOを考える。
→年商10〜20億円を超える規模になるかどうかがIPO検討の基準。
・最近、IPOを控える傾向があり、太く長く未公開でいくベンチャーが増加。
・会社は年商5億円くらいになると経営ができるようになり、組織がしっかり
してくる。
・IPOしてマザーズ族になったから成功ではない。
→ステークホルダーが増え、エンドレスのストレスに耐え続けねばならなくなる。
・IPO時に創業者として、50%以上自社株を持っていないならば、持ち株の10〜20%
はIPO時に売却すべき。
→クレイフィッシュの創業者である松島氏はIPO時に自社株を10数%しか持って
おらず、真面目にIPO時に1株(公開初期1株/1500万円)も売却しなかった為、
営業を依存した光通信に会社を乗っ取られ、無一文になってしまった。
○2006年マザーズ族で評価できる起業家(41人中2人のみ)
・monotaROの瀬戸欣哉・代表
→住友商事から独立し、町工場向け資材(市場規模4兆円)のネット取引を事業化。
どこでも通用するプロの経営者を目指している。
・インスペックの菅原雅史・代表
→液晶パネルの検査機器というニッチ市場で世界トップの技術力。
時価総額が20億円しかなく、IPO時に1億円しか調達できなかったが、こういう
本当の意味でのハイテクベンチャーが十分な資金調達ができるのが、本来の
新興市場の役割であるはず。