伊藤元重先生の講演メモ

グリーンスパン氏の回顧録は、自伝というよりは経済学の読み物として大変面白いそうだ。
本の中で、在任期間中に2つの危機(ヘッジファンド・バブル、ITバブル)を乗り切った際に、公定歩合を4%から一気に1%へ下げた時の有名な言葉を紹介してくれた。機会があったら読んでおきたい。
金利を上げる時にはエスカレーター、下げる時にはエレベーター」

波乱の時代(上)

波乱の時代(上)

波乱の時代(下)

波乱の時代(下)


<講演メモ>
テーマ「不動産市場から日本経済を考える」


○グローバル経済の動き
 ・全ての経済の現象は光と影の部分がある。
 ・なぜ今、サププライム問題が起こったのか?
  →世界経済は、これまで非常に強かった。
   加熱の問題を考えねばならないが、中国経済は強く成長している。
 ・1970年代を堺にして、経済成長は下がった
  73年、79年の石油ショックを経て、80〜90年代は統計的に経済成長は低下。
 ・2003年から変化の兆しがあり、2005年よりの3年間は、過去30年で最も高い
  経済成長をしてきた。
  →IT革命、グローバル経済化が理由
 ・経済が強くなると加熱が問題になる。
 ・米経済の好調が、中国・インドを支えている。
  →米国で貯蓄性向が最近マイナス、住宅ローン金利が下落、株・不動産の上昇
 ・米国民は、所得より多くを消費している
  →世界の景気を支え、日系企業も米国で儲けていた
 ・米産業で最も成長に貢献したセクターは、流通と金融。
  →情報処理技術でビジネスが変わった
   ウォルマート人工衛星を2つ所有
   金融工学は経済学の歴史では以前からあったが、コンピュータが安価となり
   計算処理ができるようになった。
 ・ベビーブーマーが定年するので、不動産が面白い
  →株式、債券、コモディティに比べて不動産は連動性が少ない
 ・モルガンスタンレーには、50人のホテルのプロがいる
 ・米不動産神話があった。10年上がり続け、少し下がり始めた
  →本格的に下がったら、本質的な問題となる
 ・来年以降の不動産価格の動きに注目が必要である。



○日本経済の状況
 ・日本経済にとって不動産は大きな役割を担っている
 ・1990年代バブル崩壊から、最近、都市部で上昇し始めた
 ・不良債権御三家(流通、ゼネコン、不動産)
  →当時ダイエーは資産価値がどんどん上がっていた
 ・経済を立て直すには、不動産の流動化、証券化しかなかった
  →1998年以降の不動産証券化が転機となった
 ・石原都知事の英断で、東京駅の空中権を認めたことにより、丸の内再開発が実現


○日本経済の将来における不動産の役割
 ・日本経済は需要が不足しており、無理やり需要を作り出して経済を支えている状態
  1.「円安」海外に輸出をして外需に支えられている
    →上場企業は全て儲かっているが、下流の小売・サービス業は苦しい
     上流インフレ、下流デフレ
  2.「財政赤字GDPの5〜6%の赤字を出し続けている。
    →政府が支出をしている。消費税を15%にすると財政赤字は解消する。
  3.「長期低金利金利が低いから、地方の不良債権が問題化していない
 ・国内で何処に需要を作るか考えねばならない
  →1960年代であれば、国家の財政が黒字なので、インフラ投資で需要作り出せた
  →政府支出ではなく、家計(消費者)による投資しかない
  →人的資本、住宅(住環境)等、将来の自分達の生を豊にするもの
 ・国民が所有する資産をどう有効活用するか
  →日系金融機関は国際的競争力が無い
   ハンガリーでは、住宅ローンに2%で円建ての商品がある。
  →個人金融資産の7割は60歳維持用が保有している
   高齢者が持っている資産をどう活用するか
   リバースモゲージによる不動産を有効に活用した金融商品の開発が必要
   資産価値の一部を安全な範囲で消費に回せるようにする事は金融手法で対応可能
 ・日本の住宅政策は、現役世代の為の手当てしかなかった
  →高齢者が保有する不動産をどう有効活用するかを考えねばならない