東京都中小企業振興公社主催で立教大学経済学部の山口義行・教授の講演会が開催された。

テレビによく出演されているが、今回初めてライブで山口先生の話を聞き、大変面白い方だと感じた。<講演メモ>
テーマ「中小企業の“連携”が未来を開く〜革新と創造の時代を生きる〜」

○2008年は逆風の年
日本経済は、サワドイ所に着ている


1.建築関係が下落
 ・2007年6月20日を期に、建築申請のダブルチェックが必要となった。
 ・申請後に修正が発生すると、再申請が必要となった。(3〜6ヶ月遅れる)
 ・申請チェック項目が細かくなった。
 →日経新聞9月の記事によると、関西2府4県で以前は、建築許可数が1ヶ月約700件
  だったが、制度変更以降の2ヶ月半の間の建築許可数は8件のみ。
 →8〜9月の新築着工件数では、戸建て40%減、マンション70%減。
 →11月の46県中25県で、マンションの着工数がゼロ件。
 →6月20日に制度変更、マニュアルの開示が8月、講習会を9月に開始された。
 →建築投資は激減し、鉄・アルミは減産体制となり、建築会社の倒産が急増。
 明らかに、政策不況である。


2.物価上昇(原油高騰が引き金)
 ・仕入価格のPI値は10月、11月共に60%アップしたにも関わらず、中小企業の
  売値は下落している。
 ・更に大手企業の値上げにより、消費者物価が上昇すれば、個人消費は低迷する。


3.サブプライム問題
 ・2007年8月に発生。これはタダモノではない、大激震である。
 ・返済額は自分で決めて良かったが、リスクを見込まれ金利が上がった。
 ・住宅バブルが金融資産バブルを生んだ。
 ・銀行ではな無く、預金を集めないモーゲージカンパニーが、住宅ローンを
  貸していた。 
  例:
  1000人に1千万円を貸すと100億円の融資となる。
  利回り10%の内3%の手数料を取り、リスク度に応じてパッケージ分けをし、
  格付けを挙げて金利を下げて債権化していた。
 ・日本国内REITは資金を集められなくなり、都内の地価上昇が止まった。
 ・米国のホーム・エクイティローンが2004年に、66兆円(可処分所得の7%)
 ・シティバンクは、2兆円の赤字だが、あくまでも帳簿上の赤字で、実際に
  不良債権を処分すれば下がるので、損を確定できない。
 ・米国の消費は9兆ドルに対し、中国の消費は1兆ドルしかないし、中国の
  貿易黒字の6割は対米黒字なので、日本が影響を受けない訳がない。


○貸渋りのメカニズム
 ・銀行の自己資本比率規制
   自己資本(資本金+利益)/銀行資産>8%
  →銀行の損失が増えると分子が小さくなる
  →分母を小さくするには、貸ハガシか、貸渋りをするしかない
  →分母を大きくするには、資本金を増やすしかない
   シティバンクアブダビ投資庁に資本を入れてもらったが、足元を見られ
   年利11%位を取られてしまう。
  

○中小企業の後継者不足
 ・後継者不足が原因により、年7万社、35万人の雇用が減っている。
 ・現在の中小企業の社長の平均年齢は60歳なので、今後10年で更に増加する。
 ・若者が家業を継がない理由は、親の仕事に将来性が無いと考えているから。
 ・立教大で、土曜午後に事業承継の寄附講座では、経営者とは何をする仕事か
  を教えている。
  今の若者は、消費者と同じで「何を与えてくれるか」と考え、「思っていた
  のと違うむとすぐに言う。


○経営者の仕事「3つのキーワード」

1.活かす仕事
 ・伝統、情報、人材、眠っているお金などを活かす。
 ・福岡の農家が元気が良い。
  →通常、野菜の3〜4割は形が悪いので売り物にならずに捨てている。
   独自に売ろうとするとコストが高いので捨てるしかなかった。
 ・ぶどうの樹の小役丸秀一氏が、農家を訪れて全部一括で買い取ると言った。
  返品されないので、車に乗せた時点で売上が分かり農家のお母さんが、それまで
  捨てていた野菜を全て届けるようになった。
  農家のお母さんは5年で自分の車を買え、年に1回、仲間と旅行に行ける
  ようになった。
  →小役丸氏は、農協にできない事をやった。
 ・ぶどうの樹では、その日に入荷した野菜で料理を作るしかなくなり、
  メニューを撤廃し、全てバイキング方式にするしかなくなった。
 ・料理人の意識を変え、捨てていた物を活かす仕組みを作った。
  全国にレストランを37店舗展開している。


2.場を作る
 ・人が人を育てるのではなく、場が人を育てる。
  経営者の仕事は場を作ること。
 ・樹研工業(豊橋市)は、来た順番に入社できる。定年なし。
  →「世界一か? 世界初か?」で、研究開発をするかどうか決めている。


3.つなぐ
 ・コスト競争力では中国に負けてしまう。
 ・イノベーション(革新と創造)には資源が足りないので、連携するしかない。
 ・ミッドタウンで売れまくっている「三河武士サムライ」というブランドがある。
  安藤竜二という30代の若者が、1社50万円で11社、地元の会社を集めて、
  ブランド名を統一して成功。サイダーは月産150本→月産4千本に増産。
 ・今治のタオルメーカーでは、高さに価値があることを消費者に伝え、
  1枚1万円のタオルが売れている。
 ・スターウェイは、北越製紙と100回使用可能な梱包材を
  開発し、2億4千万円をVCから調達したが、3年で資本金を食いつぶしてしまった。
  ダンボールの30倍の値段で、梱包材を売ろうととしていた事を反省し、
  メンテナンス会社に配送システムを売り、利用料をもらう事にした。
  PCメーカーと提携し、ICチップを箱に組み込み、在庫管理サービスも提供。
  新連携の補助金3千万円で、生き返った。


4.問う
 ・自社の強みは何か、ニーズは何か、常に謙虚さを持ち問い続ける。
 ・顧客は何に対してお金を支払っているのか。
 ・北原照久氏は、一度もブリキのおもちゃを売ったことはない。
  →ある時、東武デパートでブリキのおもちゃ展を開催し、売り物ではないので、
   写真をポスターにして1枚500円で1500枚用意したら、全て売り切れた。
   それを機会に、博物館でレプリカを販売して、儲けている。
 ・感動しているから何か買って帰る。
  →ディズニーランドのお土産代は1人/平均8千円。USJは4千円。
 ・成熟時代は常に顧客の心を問わないと、ずれてしまう。
 ・「下関ふぐ」は半分が愛知県産。運送料を支払っても「下関」ブランドに
  した方が、高く売れる。
 ・ストーリーを作り出すと価値が上がる。幕末あんぱんプロジェクト