昨日の1/19の夜、ローランド・ベルガー会長の遠藤功氏の講演が、アカデミーヒルズであったので聴いてきた。昨年2007年12月に『プレミアム戦略』を出版されたそうで、その著書の中から要点をお話頂けた。

非常に話が分かり易く、頭の良い人だと関心した。プレゼンの最後に「プレミアムとは熟成である」という言葉が印象的だった。なるべく早く我々は、手遅れにならないようにプレミアムに手をつけ、新しいマーケットを開拓せねばならない。


プレミアム戦略

プレミアム戦略


<講演メモ>

テーマ「プレミアム戦略」〜「ブランド」の時代から「プレミアム」の時代へ〜


○発想の大転換が必要
 ・これまでのようなキャッチコピーだけではなく、戦略として「プレミアム」を考えねば
  ならない。
 ・プレミアム企業が生まれないと、日本経済はジリ貧に成らざるを得ない。


○価格差
 ・スズキ「アルト」は703,500円、「ポルシェ911カレラ」は11,780,000円と16.7倍。
 ・サマンサタバサのバッグは15千円、エルメスケリーバッグは91万円と60倍。
  →ちなみに、ケリーバックはアルトより高い。
 ・東横インは1泊6200円、ザ・ペニンシュラは1泊69千円と11倍。
 ・いずれも消費者は喜んで高いお金を支払っている。
 ・「パリュー・フォー・マネー(お値打ち)」から、価値ある物は高いという
  「マネー・フォー・パリュー」に、ビジネスとしての発想が異なる。


○プレミアとは?
 ・プラスアルファの価値、本物、極上から「憧れ」「ワクワク、ドキドキ」するもの。
 ・情緒的な物にお金が支払われ、いくら良い物を作ってもプレミアムにはならない。
 ・高い機能的価値(Quality)×高い情緒的価値(Emotion)


○商品には「格」がある
 ・上位市場:持っていることによる高揚感。
 ・中位市場:日本企業の主戦場で、上位には行けず下位から追いつかれている。
 ・下位市場:インド・中国の主戦場だが、キャッチアップが非常に早い。
  →トヨタは今までとは違う市場でノウハウを付けるべく、真剣に「レクサス」に
   力を入れている。
  →スウォッチ・グループは最高級ブランド6種、上級ブランド3種、中級ブランド6種、
   基本ブランド3種を持っている。


○世界のラグジュアリー・グッズ市場(米国Just-style社)
 ・8,800億ドル(108兆円)の市場規模から2010年には2兆ドル(295兆円)に拡大。
  →世界の自動車産業の市場規模200兆円の半分。
 ・商品やサービスは「二極化」し、インド車は28万円で販売されている。


○500万円以上の輸入車比率の上昇
 ・日本市場で輸入車は24〜25万台、その内4台に1台は500万円以上。


○プレミアムの収益性

分野 企業名 営業利益率
自動車 トヨタ 8%
自動車 BMW 7.8%
自動車 ポルシェ 33.4%
服飾・宝飾 LVMH 19.9%
服飾・宝飾 エルメス 27.4%
時計 スウォッチ・グループ 20.2%
時計 リシュモン 19.2%
オーディオ バング&オルフセン 10.4%
ホテル フォーシーズンズ 25.9%

 ・プレミアムは全市場の5%。
 ・ポルシェは年間10万台販売で営業利益3千億円、トヨタは年間800万台販売で
  営業利益2兆2千億円。台数は1/80で利益は1/7。


○ドイツの自動車のブランドイメージ
 ・Premium(機能的価値・高×情緒的価値・高):メルセデスBMW、ポルシェ、アウディ
 ・Respect(機能的価値・高×情緒的価値・低):フェルクスワーゲン
 ・Love(機能的価値・低×情緒的価値・高):アルファロメオ
 ・Ignorance(機能的価値・低×情緒的価値・低)


○なぜレクサスは立ち上げで躓いたのか?
 ・3年前に日本でスタートしたが、昨年やっと立ち上がった。
 ・米国で大成功した「LS」を昨年に新エンジンを導入して日本市場に投入。
  →それまでは「GS(アリスト)」「ES(ウィンダム)」「IS(アルテッツァ)」
   「SC(ソアラ)」と今までの車種を流用していた。
 ・象徴する「フラッグシップ」商品が無かった。
 ・ホスピタリティではごまかせれなかった。
  →機能的価値が無いのに情緒的価値は生まれない。
 ・いきなり143店舗で一斉販売してしまった。
  →ディーラーとの約束を優先してしまい、商品の飢餓感が欠如してしまった。
 失敗するべくして、失敗してしまった



メルセデス・ベンツの価格帯

Sクラス 996万円〜1,980万円
Eクラス 640万円〜1,046万円
Cクラス 450万円〜651万円
Bクラス 299万円〜402万円
Aクラス 252万円〜353万円

トヨタの価格帯

クラウンマジェスタ 567万円〜690万円
エスティマ 266.7万円〜447万円
ハリアー 266.7万円から400.1万円
マークX 247.8万円〜362万円
カムリ 247.8万円から336万円
カローラアクシオ 140.7万円〜233万円
ヴィッツ 107.1万円から164万円

○日本立ち上げ時のレクサス価格帯

レクサスGS 538万円〜785万円
レクサスIS 390万円〜525万円

○現在のレクサスの価格帯

LS600h/600hL 970万円〜1,510万円
LS460 770万円〜965万円
GS 538万円〜783万円
IS 390万円〜525万円

→2年後にハリアーが「レクサスRX」となり、150〜200万円高くなる
 LSを基準に下へ根付けをしていけるようになった

プレミアムで一番大事なのは「価格政策」で、価格に見合う商品を徹底して作らねばならない。
価格を見ると戦略が見える。価格差を意識して、価格差が広いほど情緒的価値が高い。


○3つのパラダイム・シフト
 ・「たくさん売ろう」としない←ボリュームで安く作る工場の発想
 ・「カスタマー」ではなく「ファン」を作る
   →ポルシェは5%の人を満足させ、その層を見て憧れる層を作る。
 ・「マーケティング」ではなく「ストーリー・テリング
   →エルメスにはマーケティング部門は無く、デザイナーの責任で作っている。
    サントリーもストーリー作りが上手。未上場だから好きにできる。
    エルメスは1993年にパリ証券市場に上場しているが、ファミリーの持株比率4割。
    BMWもクマント家が50%以上持っている。


○プレミアムの原則
 1.「作り手の主観」こそがプレミアムの命
   ・究極のこだわりを持った尖った「個」の存在
   ・商品計画はなく「要は職人が何を作りたいかだ」(エルメス
   ・「気に入った人だけ買えばいい」という開き直り
   ・「F1で勝ちたかっただけ」(エンツォ・フェラーリ)
   ・「圧倒的に静かな車LS400」(鈴木一郎)
   ・「ザ・プレミアム・モルツ」(山本隆三)
 2.常に「進化」であるつづけること
   ・「伝統とは革新の連続である」(虎屋17代目当主、黒川光博)
   ・飽くなき追求→BMWの「走り」へのこだわり
   ・エルメスには毎年テーマがあり、コア・ファンを魅了し続ける
 3.派手な広告・宣伝はしない
   ・さりげないエモーション
 4.飢餓感・枯渇感を醸成する
   ・売り切れ伝説、品切れ伝説
   ・「需要より1台少なく作れ」(フェラーリーの教え)
   ・1粒250円チョコレートに、シリアルNOを打ってあり、世界限定2万粒のみ
 5.安易な拡張は行わない
   ・ポルシェSUVカレラは、ポルシェのユーザーが更にもう1台購入
   ・BMWの1シリーズは、FR方式のスポーティーさにこだわった
   ・ベンツAシリーズは、妥協の結果、FF方式を採用した為、BMWに流れてしまった
   ・レミアムの最大の敵は「大衆化」
 6.販路を絞り込む
   ・便利にしてはダメ。敷居を高くし「ここでしか買えない」限定感を与える
   ・ブレミアムとは居心地の悪い位のおもてなし
 7.細部にこだわる
   ・プレミアムは細部に宿る
   ・目に触れる全てにおける完璧性と一貫性→「ここまでやる!!」感動
   ・こだわりが無ければストーリーは生まれない
 8.グローバルを目指す
   ・世界に打って出る、真のプレミアムは「無国籍」
   ・御木本幸吉の野心
     1899年創業、1910年ロンドン進出、1933年シカゴ万博、1937年パリ万博、
     1939年ニューヨーク万博に出展


ルイ・ヴィトンの日本での成功
 ・ルイ・ヴィトンは20年前に日本に最後発で上陸した時、当時三大ブランド(エルメス
  グッチ、シャネル)が確固たる地位を占めていた。
 ・当時は異端とされた「直営店方式」でじっくりとファンを作り、販路を拡大した。


○サービス業のプレミアム
 ・特定のインテリジェンスを与えるメディアがあってもよい

B2Bのプレミアム
 ・B2Bは経済合理性で決まるので、情緒的価値を上げるのは難しい
 ・いくら安心感、信頼性を謳っても10〜20倍の価格にはできない