著者の崎谷博征氏は脳神経外科専門医で、現在は統合医療での難治治療の研究に取り組まれているらしい。
2004年8月り出版であるが、今日の医療崩壊をデータに基づき、予測されていた。
患者見殺し医療改革のペテン「年金崩壊」の次は「医療崩壊」 (ペーパーバックス)
- 作者: 崎谷博征
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/08/24
- メディア: 単行本
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<読書メモ>
○医療費の高騰
・2002年健康保険法改正により、老人は定率1割、サラリーマンは3割の自己負担と
なった。
・政府管掌保険には、2003年から保険料総報酬制が導入され、賞与の保険料が0.3%
から4.1%に上昇し、手取り額が10万円近く減った人もいる。
・2001年度の国民医療費に占める家計負担(保険料負担と自己負担)は45.4%で、
残り32.4%が公費(国庫と地方自治体負担)、22.3%が事業主負担。
・2002年患者調査では、70歳以上の外来受診率は、過去6年間で21.9%減少し、
35歳〜64歳の外来受診率も6年間で18.4%に抑制された。
・受診抑制で民間病院の医療費は32.7%減。
・2004年に、在宅自己透析に対する保険点数をアップし、毎年1万人づつ増加している
透析患者に対する医療費を軽減しようとしている。
○不公平な健康保険制度
・健康保険は「被用者保険」(国民の2/3)と「国民健康保険」(国民の1/3)とに分かれる。
・「被用者保険」は中小企業のサラリーマンが加入する「政府管掌保険」、大企業の
サラリーマンが加入する「組合管掌健康保険」、公務員が加入する「共済組合保険」
に分けられ、職場による強制加入となつている。
・平均標準報酬月額はそれぞれ29万円、37万円、43.5万円と公務員の給料が高い
にもも関わらず、保険料率は政府管掌保険が最も高い。
・組合管掌健康保険」「共済組合保険」の保険料率引き上げに関する情報開示は
全く無い。
・「国民権鵜保険」は地域による強制加入で、5千万人を越え最大の医療保険で
あるが、保険料を軽減されている低所得世帯が35%もあり、4割弱の中間所得
世帯が、保険料全体の7割を支えるという、いびつな構造となっている。
・国保の保険料滞納者は20%に達し、1986年に国民健康保険法を改正し、保険料
滞納者に「国民健康保険被保険者資格証明書」を発行し、医療機関で支払う
治療費を窓口でいったん全額支払わねばならないようにした。2000年から
義務つげられ、発行数は急増している。
・1984年に国保に対する国庫補助金を削減し、1995年に収入に関係なく世帯人数で
決まった額を納めねばならない比率を3割から5割に引き上げる「平準化」を
実施。
・官僚が共済保険を温存する為に、財政が厳しい国保をサラリーマンの被用者保険に
押し付ける目的で、被用者保険と国保を、都道府県単位を単位とした保険者の
再編・統合を検討し始めている。
→サラリーマンに公務員の尻拭いをさせた例
国鉄共済年金は、当時3千億円以上の収支不足があり、1982年には事実上破綻。
翌1983年に国家公務員共済年金に統合されたが、1996年に共済年金から
切り離し、一般の厚生年金に統合した。
・高額医療費に対し償還制度があるが、国保・政管・老人保健は申告しないと
還付されない。その為2002年10月から2003年3月の6ヶ月で120万件、総額68億円
が未償還金となっている。(2004年3月参議院決算委員会)
組合健保・共済組合の加入者は申告は不要で、電算処理により超過分のみならず
様々な付加給付までが戻る。
○独立行政法人化時の出資金切捨て
・新独立行政法人に旧特殊法人の資産・負債を時価評価して継承した際、時価と
簿価の差額分が切り捨てられた。
厚労省管轄の8法人の出資金3兆2900億円(2001年度簿価)が、新独立行政法人化
後に資本金2兆4400億円となり、8500億円が切り捨てられた。
内訳は、労働福祉事業団(現・労働者健康福祉機構)で約2690億円、雇用・能力
開発機構で約5527億円となっている。
○アメリカの医療
・盲腸に掛かる医療費は244万円。日本では21万円だが自己負担は3割の7万円。
・1965年、ジョンソン大統領がメディケア、メディケイドという公的健康保険
制度を導入するも、国民の20%近くの4400万人が現在も無保険者。
○日本の国民皆保険制度の歴史
・1927年(昭和2)に、富国強兵の立場で、当初は労働者に対する医療保険として
導入されたが、保健証で受診できる病院は全国に28ヵ所のみで、殆どの国民が
地域の開業医で自由診療だった。
・1961年に国民皆保険制度の導入時点で、無保険者は3千万人いた。
・1961年当初の皆保険生徒゛では、組合健康保険10割、家族5割り、国民健康
保険5割の給付率で、1963年に国保世帯主7割、1968年に家族7割となり、
現在の3割負担に近くなった。
○第三者評価取得の費用
・日本医療機能評価機構の「病院機能評価」登録審査料は200床以上の病院で
180万円、認証期間は5年間。
・ISO9001が登録審査料は100万円、定期審査料が年間30万円。認証期間は3年。
○医師のカースト意識
・米国では心臓内科・外科医や脳外科医の収入は破格に高く、年収ベースで
脳外科医50万ドル、心臓内科医(循環器内科)49万ドル、心臓外科医41万ドル、
一般外科医35万ドル、一般内科医18万ドル、一般開業医14万ドルなつている。
・日本では専門科によって収入格差はなく、経験年数で給与が決まるが、
脳外科医は、内科、一般外科、整形外科を低い存在と見る傾向がある。
また内科医は、眼科、皮膚科を低く見る傾向がある。
○医療市場の規制緩和
・米国よりの外圧で2002年の診療報酬改定で「205円ルール」が撤廃された。
「205円ルール」とは、患者1日分の薬剤費が205円以下ならば、医療機関が
レセプトの薬剤名・投与量を省略できるもの。1999年には推計で1兆7千億円
に上る外来薬剤費が保険請求されている。
実際には十数円の薬剤しか処方していないが、上限の205円まで請求する
不正請求の温床と言われていた。このルールの撤廃により高額な米国製
薬剤が使われやすくなる。